美術展「老いるほど若くなる」年を重ねた輝き宿る作品

2月18日から松本市美術館

70歳以上の公募による美術展「老いるほど若くなる」の入賞、入選作品展が18日から3月26日まで、松本市美術館(中央4)で開かれる。
2年に1度開き、今回は改装工事のため休止した2020年度を経て4年ぶり9回目となる。全国44都道府県から481人の応募があり、俳優の檀ふみさん、デザイナーの皆川明さん、小川稔館長が110点を選んだ。最高齢は100歳だ。
自由な発想や人間味、経験などが表れた作品の数々からは、年を重ねたからこその輝きや創作に向かう情熱が伝わってくる。
約8割が県外からの応募で県内は93点。県内応募者で最も上位の準グランプリ無縫賞に選ばれた武田光弘さん(79、安曇野市穂高)と、MGプレス賞を受けた荒深(あらふか)重徳さん(70、同)を訪ねた。

準グランプリ武田光弘さん マンガの躍動を木版画で表現

準グランプリの武田光弘さんは入賞作「アトムの時代」について、「少年の時に受けた躍動感を表現してみたかった」と話す。雑誌があまり手に入らなかった小中学生時代、手塚治虫さんのマンガを初めて読んだ時の、絵の中に動きがある感動を込めた。
人物や車、高層ビル、旋風のような線…どのモチーフにも昭和の懐かしい雰囲気と勢いが漂い、木版画ならではの温かみがある。
小中学校の教員だった武田さん。木版画に関心を持ったのは40年以上前、特別支援学級を担任し生徒が協力して版画大作に挑戦した際。その様子を見ながら「削ったり刷ったりする工程が面白い」と感じた。信州版画協会に入会し中学の美術教師をしながら創作。古里の風景や童話などを彫り作品展も開いた。
木版画の魅力を「白、黒がはっきり出る画面構成や、黒い部分の重量感が好き」と武田さん。最近は物語を考え版画を添えた絵本や豆本など、多彩な形の版画に取り組む。
同展への出品は初めて。これまでにも版画や絵本での受賞はあるが「油彩や水彩作品がある中で選ばれてうれしい」。作品展などで教え子に会えるのも張り合いで「昔も今も、教え子に刺激をもらっているのかな」と笑顔だ。

MGプレス賞荒深重徳さん 幻想的な世界描く繊細な銅版画

MGプレス賞の荒深重徳さんは、銅版画で幻想的な世界を表現。入選作品「時空を超えて」は、同じテーマで制作した違うデザインの3作品を並べた。
森や海、山脈を越え舞っていくチョウ。「夢や憧れの世界に舞っていくチョウに自分の気持ちを託した」と荒深さん。静かな白黒の世界に込められた情熱が繊細なタッチからも伝わってくる。
中学校の美術教師や小学校長、県教委、豊科近代美術館館長など重責を担ってきた。40年ほど前から銅版画を始め、現役時代は毎晩、夜中に3時間ほど創作に熱中。「自分自身と向き合いながら、さまざまな気持ちを作品に込めることでエネルギーにしてきたのでは」と妻のたつ子さん(70)は見守ってきた。
濃淡を豊かに表す「メゾチント」技法を用いる。現代美術家協会に所属し受賞歴もあるが、「老いるほど若くなる」への応募は初めて。対象年齢になり、長男に勧められたことなどがきっかけだ。
入賞を「県外からの応募が多い中、選ばれてうれしい」と荒深さん。「作品は全て自分の心の形。これからも健康管理に気を付けながら続けていきたい」と話す。

「老いるほど若くなる」美術展は午前9時~午後5時、大人600円、大学、高校生と70歳以上の松本市民300円。月曜休館。TEL0263・39・7400