【小林千寿・碁縁旅人】#45 世界の博物館・美術館

スイス・ジュネーブのアリアナ美術館で見つけた3匹の猿が碁を打つ焼き物

世界の美術に興味があるので、折ある毎(ごと)に英国・ロンドンの大英博物館、フランス・パリのルーブル美術館、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館、アメリカ・ニューヨークのメトロポリタン美術館、エジプト・カイロ博物館など訪ね歩きました。その膨大なコレクションには圧倒され、驚愕(きょうがく)させられます。
しかし21歳の時に、23歳の英国人の囲碁の弟子に大英博物館に同行を頼むと、「恥ずかしいよ。英国が過去に何をしてきたのか、世界中から盗んできたものが分かるよ」と言われました。その言葉は心に長く残り、以来、歴史を知れば知るほど世界の博物館、美術館を見る目が微妙に変化していきました。
大英博物館でたくさんの浮世絵を見た時、メトロポリタン美術館で学校の教科書で知っている有名な日本作品を見た時に、複雑な思いに駆(か)られました。どんな経緯で、ここに辿(たど)り着いたのだろうか?
ルーブル美術館の巨大なエジプトの遺跡の石、パピルス文書など、どのように誰が持ち出せたのだろうか?
古代ギリシャの彫刻も世界中に散らばっています。見れば見るほどに疑問が湧き、大きな美術館内を歩き疲れ途方に暮れる思いでした。
そして近年、旧植民地の文化財を返還する動きが英国、フランス、ドイツなどで広がりつつあると聞きます。
それぞれの作品が合法的な契約の下に取得されたものか、略奪されたものであるか、見解も分かれているようです。現実的には美術館、博物館に納められているが故に正しく保存されている作品も多いことでしょう。
長い人間の歴史上、何が幸いか分かりません。そんな複雑な思いの中、私は東洋の作品を集めたコーナーで碁盤を探すことにしています。大抵は日本、韓国、中国の絵、置物などにあります。日本作品だと平安時代の大きな屏風(びょうぶ)の中で殿様らしき人が碁を打っています。見つけた時にホッと心が和みます。(日本棋院・棋士六段、松本市出身)