[創商見聞] No.80手塚 民幸 (フォルスピスポーツクラブ)

 「創商見聞 クロスロード」第80弾は、2018年に塩尻市でスポーツクラブ「フォルスピスポーツクラブ」を創業し、代表を務める手塚民幸さんに、法人化を目指すこれからのビジョンなど聞いた。

レジャー=ゆとりであること

【てつか・たみゆき】36歳、栃木県さくら市出身。東海大体育学部卒。旅行会社勤務を経て、2014年長野県移住。18年4月フォルスピスポーツクラブをスタート、代表に就任。

フォルスピスポーツクラブ

塩尻市大門 ☎090-5334-7354

―サッカー少年から
 栃木県出身で、小学4年から大学まで、ずっとサッカーをしていました。「人生はサッカーから学んだ」と言っても過言ではないくらい打ち込みました。 高校卒業を控えた頃には、将来像として「なんとなくスポーツに関わって生きたい」と思っていました。
 体育教師を目標に東海大進学を目指す友人がいました。同大の「体育学部スポーツ&レジャーマネジメント学科2期生募集」というパンフレットを見せてもらったのが、進路を決めるきっかけでした。自分の将来像とリンクし、とても興奮したことを今でも覚えています。
 大学卒業後は旅行会社に勤め、学校のスキー旅行や修学旅行などを担当しました。
 結婚し、長男が生まれ、家族の時間を大切にしたいと思いました。併せて、妻の出身地である長野県への移住計画も立ち上がりました。移住するなら転職もする。旅行業とかではなく、もう一度、サッカーに携わりたい、という思いも募りました。
 大学の友人の縁で塩尻市に拠点を置くサッカークラブのアンテロープ塩尻に「働かせてほしい」と希望を伝えたところ、他の仕事で働きながらのコーチなら受け入れてもらえることになり、2014年、塩尻市に移住しました。
 地元の新聞店で正社員として働きながら、サッカーの現場に再び立つことができました。最初は中学生年代の指導を担当しました。
―移住心境
 移住してみて改めて寒さや広さを感じています。特に移動が大変で「重く」感じます。長野に比べて栃木は狭いし、周囲は関東平野だから隣県に行く際も特に区切りも無く、移動が連続する感じです。
 長野県は隣の町へ行くにも「峠を越える大移動」という感覚があります。でも、この移動時間でいろいろ考える時間ができていいです。
―指導心境
 中学生年代からスタートしたからかもしれませんが、子どもたちが一つのスポーツに絞り過ぎている印象を受けました。サッカーだけでなくいろいろなスポーツで、種目「オンリー」になっている傾向で、もう少し他のスポーツも経験し、身体を作っていくことが必要ではないでしょうか。
 また、県民性のようですが、子どもも大人も真面目な子が多いことは自分も印象として受けました。もうちょっと遊び感覚があってもいいかな、とも感じます。
 指導を通じて、「スポーツには遊びの視点も大切」と思い始め、大学で学んだことを思い出しました。大学の一番最初の授業で、スポーツだけで生計を立てることは厳しいと教わりました。でも「スポーツ&レジャーマネジメント」の概念も学びました。中学生年代だけでなく小学生年代も教えたい。また何よりスポーツクラブのオーナーになりたいと思うようになりました。
 所属クラブや勤務先の了承も得て、18年にスポーツクラブを立ち上げました。
―みんなの遊び場
 サッカー指導者の風間八宏さんに敬意を払っています。書籍をはじめ、育成年代の指導方法に感銘を受け、とても影響を受けました。風間さんは、ドイツサッカーにルーツがあります。そんなところから、クラブ名を「フォルスピスポーツクラブ」としました。
 フォルクスは独語で「国民・みんな」、スピールは「遊び」の意味。「フォルスピ」は二つを合わせた造語で、「みんなの遊び場」のようなイメージです。
 最初は放課後を利用し、宿題をやってスポーツもする「フォルスピ放課後クラス」という名前でスタートしました。初回の参加者は、広丘体育館に私の息子1人でした。それでも徐々に生徒は集まり始め、今では25人が登録。常時15人前後が参加するまでになりました。
―法人化に向け
 現在は新聞店も退職し、クラブを個人事業から法人にする準備を進めています。塩尻商工会議所に相談し、NPOにするか株式会社にするか検討しています。現在の年間売り上げ目標は540万円。これを3~5年計画で1000万円くらいにしないといけません。単純に計算すれば月謝8000円の参加者を常時100人集めるということです。個人指導のクラブでは、現実的にとても難しいレベルです。
 今まさにスポーツだけで生計を立てることは厳しいことを実感しています。
 でも、「レジャー=ゆとり」の視点から仕組みを考え、クラブ以外の事業でも収益を上げる取り組みを始めています。同市洗馬地区で古民家を購入しました。修復して宿泊施設やコワーキング向けのレンタルスペースなどもやっていきたいです。
 昨年末の冬休みには「昼間サッカーをやって、古民家で宿題、夕方ゲーム大会」を開催。延べ60人ほどが参加してくれました。
 大学や旅行業で得た知識や経験が今、とても役に立っています。今後も、スキープランや長期休みプランを考え、チームに所属していなくても遠征しなくてもスポーツができたり、勉強ができたり、遊びができるシステムを構築したいです。
―フォルスピドリーム
 近年、スポーツの専門スキルを学ぶ場は地方でも増えている印象です。フォルスピでは単なる技術を指導するだけではなく、もっと大きなスポーツの枠組みの中で「レジャー(ゆとり)を提供する場」となりたいと思っています。
 まずはクラブの、四つのクラスをしっかり運営します。①現在提供している、放課後に宿題や野外スポーツをする通常クラス②サッカーに特化したフットボールクラス③体育館を中心にリズムトレーニングやマット運動、バレーやバスケに取り組む屋内運動クラス④午前中に健康運動をして、その後でランチを楽しむシニアクラス―です。
 立ち上げ当初の創業期以上にスポーツ事業で生きていく難しさを痛感していますが、スポーツを通じてのレジャー(ゆとり)を大切にしながら、NPOではなく株式会社としてやっていきたいです。