
「四つ葉のクローバー」と聞けば、ほとんどの人が「幸運・幸福をもたらすもの」「幸せの象徴」などの言葉を思い浮かべるのではないだろうか。
一方、四つ葉になる原因の一つには、成長段階で傷ついた葉が分かれて四枚になる、という説があり、ハッピーとは言い切れない現実もある。が、再生力の強さは幸せに通じるともいう。
安曇野市穂高の原孝雄さん(65)は1月末、脳性まひで生まれた次女、由香里さん(36)との日々を、4こま漫画とエッセーでつづった本「ゆかりんは四つ葉のクローバー」(東洋出版)を自費出版した。前向きな家族の姿やコミカルな漫画が口コミやSNSなどで話題になり始めている。原さんに著書に込めた思いを聞いた。
自由に力強く“飛んで”ほしい
原由香里さん、通称「ゆかりん」は1986(昭和61)年、著者の孝雄さんと妻・千賀子さんの次女として生まれた。間もなく「脳性まひによる体幹の機能障害」と診断されたゆかりんは、今も這(は)って移動し、発語ができない。
しかし、コミュニケーション力は高く、身ぶり手ぶりで多くのことを発信する。孝雄さんは「発する言葉がなくてもコミュニケーションができるということを、ゆかりんから学んだ」と話す。家族が洗濯物を畳んでいると、これから畳む分を手渡しするなど、よく“気がつく”。
ゆったりとしたペースながらも成長し、36歳になった今は、共同作業所など3カ所の事業所に通っている。どこも大好きで、家族が「行く気満々だね」と笑って送り出す毎日だ。
漫画とエッセー 家族の愛情描く
本の表紙には、大きな翼の鳥に乗って意気揚々と両手を挙げる、ゆかりんの姿が描かれている。孝雄さんは、「実際は歩くことができないゆかりんだが、できる限り自由に力強く“飛んで”ほしいという思いを込めて描いた」と語る。
中ページは基本的に片面が4こま漫画、もう1面はエッセーで構成。4こま漫画にした理由は「一つ一つのエピソードを簡潔にまとめられ、ユーモアも入れられるから」。
例えば、ゆかりん6歳の誕生日を取り上げた漫画の1こま目は、誕生日ケーキに喜ぶゆかりんの絵。その後のこまでは、口で上手に吹けないため、ろうそくの火が消せず、頑張る姿が描かれる。そして4こま目は「鼻息で見事に消した!」。
登場する家族も温かい。孝雄さんの父で2015年に亡くなった「じじ」はゆかりんをはじめ、姉と妹の面倒もよく見た。ゆかりんの障がいが分かると、さらに愛情を注いだという。
小さい頃の妹が姉・ゆかりんの車いすを押して散歩をしたエピソードもある。見かけた大人が褒めてくれたが、妹は当たり前のことをしてほめられても納得できない様子だった。今も嫁いだ長姉と共に自然体でゆかりんに接している。
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孝雄さんは幼い時から漫画家か画家志望で、千葉大教育学部で美術を専攻。美術教諭として県内の中学に赴任した。不登校や障がいのある子どもの教育に携わることを希望し、2校目から特別支援学級を担当。ゆかりんが生まれてからは養護学校の教員となり、長い年月を過ごした。
日常的に行き来が多い親戚の臼居貴子さん(62、穂高)は今回、原家から直接入手した本を読み、あえて感想を長い手紙にした。「ゆかりんから生きる希望をもらっているという点に感動した」などと書かれていたという。
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A5変形判、186ページ。初版1000部。税込み1100円。安曇野市の平安堂あづみ野店、松本市の丸善松本店などで入手できる。