松本の出版社から旧統一教会を知る本

日韓関係の理解深めて

松本市の出版社、悠人(ゆうじん)書院(沢村1)は、写真記者、井上和博さん(72、東京都)が、約50年にわたり取材を続けてきた旧統一教会(現世界平和統一家庭連合、本部・韓国)の記録をまとめた「カメラマンは見た時代を喰(く)った顔(1)統一教会と日韓の『闇』」を出版した。
昨年7月の安倍晋三元首相の銃撃事件をきっかけに、同教団の実態や信者の現状などについて連日報道された。さまざまな問題が浮かび上がり、世間の注目を集めている。
悠人書院の福岡貴善代表(58)は「教団による被害者を救済することは大切だが、教団の非難や糾弾ばかりに偏るのはどうか」と疑問を呈する。「この機会に日韓の歴史をしっかり認識すべきだ。この本が一助になれば」。福岡さんに同書を出版した意図などを聞いた。

悠人書院代表の福岡貴善さんに、井上和博さん著「カメラマンは見た時代を喰(く)った顔①統一教会と日韓の『闇』」出版の狙いや、井上さんの仕事について聞いた。
─この時期に、この本を出した意図は
私が中央公論新社にいた時、井上さんが2002年に出版した「時代を喰った顔」を担当した。政治家、スポーツ選手、文化人などさまざまな分野の人を井上さんが取材した本だ。絶版になっていたので、どうにかして復刻したいと考えていた時に、安倍元首相銃撃事件が起きた。
井上さんが旧統一教会をはじめ、韓国の大統領や財閥総帥などを長年、取材していることは知っていた。この教団を軸にして「日韓の歴史の闇」をテーマにすれば、今後さまざまな分野の話でシリーズ化できると思った。
─読みどころは
旧統一教会の創立者、文鮮明(1920~2012年)は1960年代半ばまで、繰り返し逮捕されるなど、怪しげな教団のトップだった。それがいつの間にか表舞台に出て、アメリカで大きな商売をし、日本で信者を増やすなどして、巨大な存在になった。その過程は年表に整理すれば分かるが、誰もやってこなかった。この本はそれを簡潔に分かりやすくまとめている。
─現在の旧統一教会の報道をどう思う
現在の報道はこの教団の「今」しか伝えていない。教団による(悪質な高額寄付などの)被害者がどんなに苦しんでいるかを伝えることは、もちろん大事だ。だが、この教団がどうやって日本の政治に食い込んだかというと、日韓の戦後史が深く絡んでいる。その辺が今の報道にはない。出版を通じて、旧統一教会を歴史的視点から分析したかった。「今」の興味だけの報道では、次の事件が起きればすぐに忘れられる。
─井上さんのジャーナリストとしての評価は
井上さんは、オーストラリアの先住民アボリジニの取材でも、集団をまとめるカリスマの普段の顔を、カメラマンの視点で追い続けてきた。そのスタイルで旧統一教会を切り口にしたのがこの本だ。
こういった写真を撮るには教団側の許可が必要。記事は教団にとってマイナスなことももちろん書いている。井上さんがすごいのは、それでも教団とそれなりの関係を保っていることだ。井上さんの教団とのスタンスを間近で見て、この人の描く「統一教会像」は間違いないと思った。
─出版を通じ読者に一番伝えたいことは
この1冊で旧統一教会のことがほとんど分かるところだ。被害者や政界における現状などは多くのジャーナリストが書いているが、この本は教団の歴史、文鮮明の人となり、現在に至るまで─など、教団を語る上で必要な基礎知識がコンパクトにまとまっている。
この教団を知ることで、日韓関係の理解を深めてほしい。少しでも多くの視点から旧統一教会を知り、考えてほしい。

「統一教会と日韓の『闇』」は1980円(税込み)。悠人書院TEL090・9647・6693

【メモ】
井上和博さん(いのうえ・かずひろ)1950年、長崎県佐世保市出身。東京12チャンネル(現テレビ東京)報道部を経てフリーに。国内外の政財界の大物の素顔、伝統工芸・芸能の世界、離島の世界などをカメラで追求。写真週刊誌「フォーカス」「エンマ」創刊にも参加した。