
何かに夢中になれることがあると生活に潤いが生まれ、充実感につながる。松本市入山辺の工藤瑞妃さん(26)は、二つの趣味に夢中だ。
一つは「製本」。大学時代に製本について授業を受けてから「本を自分で一から作り販売できる世界がある」と知った。社会人になってから伊那市の製本業者の教室に通った。「休日は(教室に)ほぼ費やした」。昨年初めて手がけた詩集が完成し、1月に販売を始めた。
もう一つは「琵琶」。全くの初心者だったが、東京まで習いに行くほど熱中。二つの趣味を両立させるため、仕事も変えた。
「やりたいこと、好きなことを全てやれている環境が、とても楽しい」と目を輝かせる。表情に充実感が漂う。
一から製本学び詩集を製作販売
本のサイズ、文字のフォント、紙質など「自分の込めた思いを全部のせられる」と、製本の魅力を話す工藤瑞妃さん。
2020年から伊那市の製本会社「美篶(みすず)堂」が主催する「本づくり学校」に通い、製本を学んできた。リゾートホテル「美ケ原高原王ケ頭ホテル」(松本市入山辺)で働いていた工藤さんは、「休日はほとんど製本に費やした」と話す。
昨年完成した詩集「夜明け前」は、学校の最終課題として作った。大学時代に書いた9編の詩がつづられている。印刷から折る作業、紙選びまで全て自分で行う。1月に京都市で開かれた「文学フリマ」に持ち込むと、デザインや詩の内容が好評で7冊売れた。
大学時代は夜中に詩を書くことが多かった。考えているうちに、窓から朝の光が差し込んできた。そんな情景を思い、書名や紙質にも込めた。本の表紙は、日が昇る前の夜中を藍色で、窓からの明かりをクリーム色で表現した。
工藤さんは小学校時代から読書が好きで、中学、高校では文芸同好会で短編小説を書くなどしてきた。京都芸術大に進学、「小説をもっと突き詰めたい」と思うと同時に、詩や短歌、エッセーなどさまざまな授業を受け、製本にも触れた。「自分でできるんじゃん」と製本の面白さに引かれた。
譲り受けた琵琶東京まで習いに
もう一つの趣味の琵琶は、全くの初心者だ。高校時代に琴部に所属していた縁で、顧問の先生から譲り受けたことがきっかけ。「弾き方が分からないが、もらったからには弾きたい!」と琵琶が習える教室を探したが、県内にはなく、現在は東京まで習いに行っている。褒め上手な先生に「初心者にしてはうまいから続けてほしい」と言われ、「まんまとやる気になった」と笑う。
伊那市や東京に通うことを考えて職を替えることにした。「趣味に近い仕事をしたい」と、昨年から松本市深志3のブックカフェ栞(しおり)日(び)で働いている。「自分の好きなことを全部やれる環境がとても楽しい」という。「製本も琵琶も1人で行う。自分のペースで自由にできることが好き」
今後は、製本のワークショップを開いたり、琵琶を演奏する機会をつくったりしたい─と希望を膨らませる。「(製本などを)やりたいと思った人が、『この人に聞けば(先につながる)』という窓口になれたらいい」と話している。