
布がふわふわになり、いい香りが漂う―。柔軟剤のイメージだ。大型店やドラッグストアなどでは、さまざまな種類の柔軟剤が並び、家庭で洗濯に使う人も多い。だが、この香りに悩む人もいる。化学物質過敏症(CS)。頭痛、吐き気、めまいなど体調が悪くなり、「香害」に苦しんでいる。
「eco lifeあづみの」は、CSに悩む本人や家族が、2022年2月に発足させた。現在メンバーは11人で、症状はそれぞれ違う。根本的な治療が見つからない中、学び合い、心のつながりを大切にしている。
生活の中には化学物質を使った製品があふれる。代表の濵綾子さん(44、安曇野市豊科南穂高)は「化学物質とは何か、それによって何が起きているか知ってほしい」と力を込める。
心寄り添い理解ある世の中に
2月20日。化学物質過敏症(CS)の当事者や家族、支援者などでつくる「eco lifeあづみの」はオンラインで、勉強会を開いた。講師は、松本大人間健康学部健康栄養学科の矢内和博准教授(51)だ。
矢内准教授は「無農薬無化学肥料が野菜の本来の姿だが、高価格ということもあり、なかなか広がらない。安定供給できるしくみを」などと話した。参加者からは、柔軟剤、特にマイクロカプセル(微小なプラスチック容器)を使ったものについて触れ、「マイクロカプセルは人から人、人から物に移り、においを放ち続けることが問題。水道水からも、スーパーに並ぶ野菜からもにおってくる」といった声が出た。
代表の濵綾子さんは、岡谷市で暮らしていた2015年、体調に異変を感じた。夫と飲食店を営んでいたが、お客の使う柔軟剤や合成洗剤の香りを吸い込むと呼吸困難になった。添加物の入った食品を食べると、胃腸の調子が悪くなった。
目の前が真っ暗になる、思考が回らず言葉が出なくなるなど症状が悪化して接客が続けられず20年、安曇野市三郷小倉に移住した。9月にはCSと診断され、岡谷市で実施した大規模な除草剤散布が原因ではないかと言われたという。
移住後、さらに体調が悪化。3カ月は寝たきり状態だった。リンゴ農家の農薬や除草剤が原因だったといい、22年3月、現在地に移ってから、体調が改善してきた。
だが、人混みには全く出られない。人と会うこともきつい。回覧板は化学物質が付着しているために受け取れない。外から香りや化学物質が入ってくるため、風向きを考えて窓を開けるなど、不都合は多い。洗剤や柔軟剤、シャンプー、農薬、化粧品―など、化学物質は多くのものに含まれており、除去して暮らす難しさも感じる。
治療法はと尋ねると、「規則正しい生活。朝日を浴びて、軽く運動して汗をかくと、至ってシンプル。免疫力を上げることが大切」と濵さん。
CSは誰でもなる病気という。「eco lifeあづみの」は共に学び、心のつながりを持つことで、孤立感や疎外感など心の苦しみを、少しでも軽くしようと活動する。CSに悩む人がいること、その症状を知ってもらうことも目的だ。「理解することがCSに悩む人を増やさないことにつながる」
昨年6月には、近くに約2000平方メートルの畑を借り、「カナリアファーム」と名付けた。本当に安全な野菜を育て、命の循環を感じてもらうためだ。「無農薬無化学肥料で育てた野菜を食べることで、体調も良くなった」と濵さん。自家用菜園をしたい人を募集している。合成洗剤、柔軟剤を使っていないことが条件だ。
濵さんは「化学物質があふれている中、ナチュラルな製品を使うことは、空気、水を汚さず地球環境を守ることにつながる。せっけんを使うなど、暮らしを少しでもシフトしてもらえれば」と話している。eco lifeあづみの(メールshiawasena.te@gmail.com)
【化学物質過敏症】過去にかなり大量の化学物質に一度、さらされたり、長期間慢性的に化学物質にさらされたりした後、非常に微量の化学物質に触れた際に見られる不快な症状。頭痛、吐き気、めまい、動悸(どうき)、呼吸困難、全身のだるさなどの症状がある。柔軟剤、洗剤、芳香剤、防虫剤、農薬、住宅建材などが原因となる。