【小林千寿・碁縁旅人】#47 美意識と街づくり

パリ・エッフェル塔の前に立つ筆者(2005年)

2000年のミレニアムの欧州は大々的なお祝いムードで多くのイベントが開催されました。フランス南東部のアビニョン市は、「美」がテーマで、「碁と美」の観点から囲碁が紹介され、喜んでお手伝いしました。
そして今、草間彌生さんとルイ・ヴィトンのコラボレーションで、パリ・シャンゼリゼの本社建物の上に草間さんを模した巨大人形が出現!フランス人の美に対する感覚に私は驚かされ、嫉妬にも近い憧れの感情が湧きます。
それは1999年、フランスから囲碁留学で預かっていた19歳の青年から「東京タワーとエッフェルタワー、どちらが美しいと思いますか?」の質問にハッとさせられた時から明確になってきました。二つの塔を、美の観点から比べたことがない自分と、当たり前に比べるフランスの青年の根本的な違いに気付かされたからです。
そして「パリが2030年までに欧州で最も緑な都市への転換」というニュース。26年までにパリ全体で17万本以上の木を植え、30年までに市の50%を植樹地で覆う約束をして建築基準法を緩和し、市民が樹木を植えやすくしています。
ニューヨーク市長の大きな目標「個を中心とした街づくり」を実現する構想と、パリ市長の「都市生活へ自然を取り戻す」は繋(つな)がります。
この動きはオランダ、スペイン、イタリアなど各国で始められています。「コロナ禍のパンデミックを通して、これまでとは違った働き方、新しい生活の在り方」を「再考」し「人間に優しい街づくり」の方向に世界は向かっているようなのです。
ところが、東京都は神宮外苑の再開発にあたり、大反対は無視され、低木も含めると数千本の伐採を許可。東京の観光名所になった銀杏(いちょう)並木にも大きな影響がありそうです。
葛西臨海水族園の建て替え計画では、樹木を伐採して太陽光パネルを設置する計画が進み、地元が猛反対しています。
日本は一体どこに向かっているのでしょうか?(日本棋院・棋士六段、松本市出身)