【記者兼農家のUターンto農】#92 つなぐ産地(上)

「お米できるの?」と言われて

「あんな山でお米を作ってるんだと言われて、ショックでした」。宮澤ファーム(安曇野市三郷明盛)の取締役、宮澤和芳さん(38)の思い出だ。15年前、東京都心部の即売イベントで客から言われた。
北清水(松本市島内)の社長、清水久美子さん(45)も同じような言葉を聞くことがある。「松本でお米ができるんだ、って」
県外でも安曇野や松本の地名はよく知られている一方、必ずしも米作りとは結びつかない。そんな状況を知る2人にとって、うれしい出来事となった。食味コンテスト「お米番付」で、本年度そろって入賞した。中信地区で複数社の同時入賞は初めて。米産地の厚みを示せた。
10年目を迎えたお米番付は、食味計による成分測定を行わないのが特徴だ。審査はすべて人が舌で味わって判定する。
「食べておいしいということにこだわりたい」という宮澤さん。2013年の第1回から出品し、最高賞を受けたこともある。コンテストを開く米流通「八代目儀兵衛」(京都市)の代表が「安曇野でこんなおいしい米ができるんだ」と驚いたのが忘れられない。
北清水は、今回が初受賞。県独自の品種「風さやか」が評価された。「このお米を知ってほしいのでうれしい」。産地と品種、一石二鳥で地元ブランドのアピールになった。
県内で見れば、米の収穫量で中信は4地区最多だ。中でも安曇野と松本が2トップ。米どころの印象を持ってもおかしくない。
だが、視野を広げると、長野県全部でも全国の2・6%に過ぎない。中信を見る目は、がらりと変わる。冒頭に紹介した宮澤さんや清水さんが受けた言葉は、そんな視点の表れだ。
実は、2人とも自らその立場に身を置いたことがある。二十歳前後を大都市部で過ごしたUターン組。「1回、外に出てみたのがよかった」と清水さんが言うと、宮澤さんもうなずいた。その意味を聞いてみた。