大町市立第一中の特色「探研部」 部員の興味が軸の部活動

「探研(たんけん)部」。大町市立第一中学校に、他校では聞かれない名称の部活動がある。「探検部とよく間違えられる。探る。そして研究する。だから探研部」。2006年度の同校生徒会誌「こぶし」に、当時の部長・太谷公亮さん(30、東京都)がこうつづっている。
「地域を知る部活動」として05年度に発足。過去には古道歩きなどの地域催事への参加や、カヌーを手作りして仁科三湖を渡ったり、商店街マップを作ったり。興味を持つことを軸に、部員が考え取り組んできた。在校生の部員3人は、校舎のジオラマ制作やコンピュータープログラミングなどに励む。
同校は仁科台中と再編されるため、本年度で閉校に。64年の歴史を語る上で外せない、特色ある部活動「探研部」の今と、卒業生らの思いに迫った。

放課後、大町市立第一中学校の技術室に集まった探研部の部員たちは、各自パソコンに向かい、コンピュータープログラミングに取り組んでいた。活動に決まりはなく、ジオラマ制作やロボットコンテストへの出場など、やりたいことを探究するのが探研部。好きなことに没頭する中学生の横顔は、みずみずしさに満ちている。
1年の橋結衣さん(13)は「どこかに探検に行くのかと思ったが、研の字が違う」。自分の好きな活動ができると知って入部し「特別な感じで楽しい」と話す。前部長で3年の仁科悠佳(はるか)さん(15)の場合、2人の兄も在学中は同部に在籍。部活動を振り返り「先生に指示されるのでなく、目標に向かって協力し、自分で考え行動することを学んだ」。

2005年に部が発足した背景には、当時校長だった山下邦彦さん(75、同市平)の熱い思いがあった。郷土の大自然に生かされていることを生徒がつかむため、地元を知り研究する場にしたい。加えて、他の部活をやめてしまうなどした生徒たちも活動できる場にしたいという願いもあった。自らも副顧問として3年間、生徒主体の活動を支援した。
草創期は「塩の道祭り」「針ノ木岳慎太郎祭」などに参加し、先人の文化や歴史を学んだ。06年度以降に取り組んだ活動は、手作りカヌーで仁科三湖を渡るという、危険は伴うが冒険心に満ちた挑戦だった。当時の顧問だった長澤正尋教諭(11年に46歳で他界)ら学校関係者は、生徒の熱意をくみ取り、実現へ寄り添った。
ベニヤ板などで組み立てたカヌーを学校のプールに浮かべた途端に浸水する、といった幾多の苦労を経て本番。挑戦1年目は木崎湖、2年目は青木湖、中綱湖を含む三湖を渡ることに成功した。
この「探研」は07年度「トム・ソーヤースクール企画コンテスト」(安藤スポーツ・食文化振興財団主催)で、学校団体部門の最優秀に当たる「文部科学大臣奨励賞」を受賞。生徒の主体性、郷土愛や自信を育んだ点が評価された。山下さんは「自分たちでどう工夫するか考え実体験を伴って挑戦し、理解を深める。それが探研部」と振り返った。
06、07年度に部長を務めた太谷公亮さんは「創部間もなく、ふわふわした存在だったが、好奇心で挑戦したことが評価され、それでもいいんだと思えた」と話す。「道のない道を進む魅力は絶対にあった。カチッとしていないからこそ、可能性や魅力を持った部活だった。自由さは残ってほしい」
08年度部長の柏原正太郎さん(28、同市平)は、「改良を加えながらカヌーが完成していく過程が楽しく、達成感があった」と懐かしんだ。

4月に開校する「大町中学校」では、仁科台中の科学部と一緒になり、「科学・探研部」の名称で新たなスタートを切る予定。第一中探研部部長で2年の宮澤凛果さん(14)は「(活動内容は年ごとに変わっても)発足当時から変わらない探研部の精神を、新しい中学でも引き継いでいきたい」と力を込めた。