
芸術に触れ、心豊かに―。そんな祖父の思いを受け継いだ孫が、祖父が作った美術館を復活させようと奮闘している。安曇野市の鷲澤幸毅(こうき)さん(38、穂高有明)だ。
長野銀行の前身、県商工信用組合の創業者の一人だった鷲澤さんの祖父、望月俊之輔さんが「経済だけでなく心を大切にしたい」と同市穂高の自宅の蚕室を改築し、1989年に開いた「望月美術館」。体調を崩し、2003年に閉館したが、鷲澤さんが3月21日、再び扉を開ける。
鷲澤さん自身は大学、大学院で声楽、オペラを勉強。中学校で教諭を務め、古典古代(ギリシア、ローマ)の文化を復興する「ルネサンス」研究のためイタリアへ留学した経験がある。「不安定な世の中だからこそ、芸術の復興を」と力を込める。
祖父の思いと所蔵品に光を
洋画家の丸山妙子さん、陶芸家の木村万岳さん、彫刻家の立川義明さん-。信州と縁の深い作家の作品をはじめ、書、書籍など、「望月美術館」の所蔵品は300点を超える。同美術館は、県商工信用組合設立者の一人で、後の長野銀行で専務を務めた望月俊之輔さんが、自宅の蚕室を改装して1989年、自身のコレクションを展示し、多くの人に開放した私設美術館だ。
作品を購入するといった芸術支援とともに、多くの人が気軽に芸術に触れ、心豊かになってほしいという願いを込めたという。2003年閉館。望月さんは09年に亡くなり、美術館はそのままになっていた。眠っていた作品と祖父の思いに再び光を当てようと、美術館復活を目指して立ち上がったのが、望月さんの次女の次男、鷲沢幸毅さんだ。
大学、大学院で声楽、オペラを勉強したが、その世界で挫折したこともあり、中学校の教員に。松本市、下諏訪町で8年間勤務した後、ルネサンス研究のため、イタリアに留学した。新型コロナ、ロシアのウクライナ侵攻、トルコ地震-と心にも生活にもゆとりがない今、鷲澤さんは「これから芸術に目を向ける時代が来る」と確信している。
そこに祖父の芸術に対する気持ちが重なった。「美術館は祖父の夢の場所。祖父に感謝を込め、孫として美術館と祖父の気持ちを受け継ぎたい」。20年ぶりに「望月美術館」が復活する。
3月21日オープン コンサートも
館内は03年に閉館したままだったといい、絵画を外してほこりを払うなど、現在は清掃作業に追われる。教員時代の教え子も駆けつけ、21日のオープンに向け、多くの人が力を合わせる。
祖父のコレクションだけでなく、鷲澤さんの教え子で、ステンドグラス作家の中村駿さん、切り絵やビーズなどを使う創作アートの丹羽ひなたさんらの作品も展示する予定。「芸術家、アーティストを支えたい」という気持ちも受け継ぐ。
21日のこけら落としにはコンサートを開き、鷲澤さんが歌うほか、マリンバ、ホルン、ピアノの演奏が楽しめる。丹羽さんらの作品を映像で流すなど、音楽、アートの枠を超えてのコラボレーションという趣向も。鷲澤さんは「こういう時代だからこそ、一人でも多くの人が芸術に触れる機会をプレゼントしたい」とする。
入館は完全予約制で、無料。21日も連絡が必要。鷲澤さんTEL090・3525・3345