
愛される品種になってほしい
農薬や化学肥料を使わず、有機肥料も極力抑えても、育てやすくおいしいトマトはできないか─。こんな課題に取り組んできた松本市波田の自然農法国際研究開発センターは、中玉トマトの新品種「カロフル」を開発した。畑の養分循環だけで栽培できるという。
同センターは自然農法や有機栽培の研究・普及、有機JAS認証業務を行う公益財団法人。「有機栽培向けに特化した新品種開発に取り組む国内唯一の機関」(同センター)という。今回は開発の過程で、初めてSNSで栽培モニターを募集したほか、品種名も公募した。子育て世代など若年層に、栽培して食べた感想を聞き、発信もしてもらうためだ。
「有機の種を広め、次世代へつながる農業を」。育成した原田晃伸さん(47)が穏やかに、農業への思いを語った。
商品化まで10年 βカロテン豊富
自然農法・有機栽培向けの野菜を開発している、自然農法国際研究開発センター。
一般の種は、農薬や化学肥料の使用を前提に、収量性や耐病性を重視して作られる。一方、同センターは、緑肥や雑草との競合があっても、しっかり根を張り、病虫害や異常気象などのストレスに強く、家庭菜園を作る人や新規就農者でも育てやすい品種を目指す。食味(うま味)と日持ち性もポイントだ。
「カロフル」を開発した原田晃伸さんは当初、ミニトマトの新品種を目指していた。いろいろなミニトマトをかけ合わせるが、樹勢が弱かったり、味が薄かったりと、なかなかうまくいかない。
ある時、同センターが開発した大玉トマトとのかけ合わせを思いつき、生まれたのが中玉のカロフルだ。商品化まで10年かかった。
カロフルの一番の特長は、ベータカロテンが豊富なこと。栽培条件により差は出るが、圃場(ほじょう)試験では同タイプの市販品種に比べ6~7倍多かった。
トマトの内側まで色が濃く、ゼリー質の部分が多いので、フルーツのような食感になる。栽培しやすく、生育の後半になっても樹勢を保ち、長い期間収穫できる。
信州大農学部の根本和洋助教(植物遺伝育種学)は「欧州では有機農業用品種の開発が進んでおり、今後日本でも重要になる。カロフルは栽培しやすさと高収量に加え、高カロテンを実現させ高く評価できる」と話す。
栽培モニター SNSで発信
開発に初めてSNSを活用した。昨年、ネットを通じて栽培モニターを募ると、全国の68人が手を挙げた。全員に苗を送り、露地やプランターでの栽培過程を発信してもらった。
広報企画・情報発信担当の内山大(はじめ)さん(44)は「栽培の様子をアップしてくれるのがうれしかった。一緒に悲しんだり喜んだり応援したりと、交流が生まれて楽しかった」と話す。
モニターからは食べ方や料理の投稿もあった。「料理はうち(センター)の弱かった視点で、発見が多かった」と原田さん。オレンジ色が華やかに彩るマリネ、たこ焼きなどのアレンジ料理も目を引いた。
品種名には500を超す応募があり、カロテンが豊富でフルーツのような甘さから「カロフル」を選んだ。「みんなに育ててもらったトマト。ずっと愛される品種になってくれたら」と原田さん。
「種って資材の一つと考えられがちだけど、生き物なんです。命を育てる源。種を通して、命を頂いていることを感じてほしい」。原田さんの種を思う情熱が伝わる。
カロフルは昨年12月から種の販売を開始。カロフルなど同センターが開発した種はウェブサイト=こちら=から購入できる。