発足40年「哲学談話会・パンセ」

「生き方」皆で学んで

「レポートにある『物と人との感応状態』はいい表現です。芸術活動が行われる状態として、私のメモに書き加えました」。信州大名誉教授で哲学・倫理学が専門の平木幸二郎さん(79、松本市岡田下岡田)の声が静かに響く。
松本市中央公民館(中央1)で毎月2回開かれる、市民グループ「哲学談話会・パンセ」(4月から「哲学書を読む会パンセ」に改称)の勉強会の風景だ。
全員が手にしているのは東京大名誉教授の竹内整一さん(76)の著書「『かなしみ』の哲学」と、その第8章について解釈と疑問を会員がまとめたリポートだ。マーカーで塗られた文節、鉛筆で書き込んだメモや矢印に、深く考えた痕跡が見える。
発足から40年、考え続ける同会を訪ねた。

読んで意見交換解説で理解深め

「哲学談話会・パンセ」の勉強会では、使うテキストを信州大名誉教授の平木幸二郎さんが選ぶ。「思想が深く、かつ、分かりやすい」哲学書が基本だ。著名な哲学者の講演録やエッセーなどで、数ページずつ読み進める。
毎月2回、勉強会を開く。1回目は会員だけで、当番が事前に作成したリポートを基に意見交換をする。2回目は1回目で出た疑問などを反映させたリポートを基に、平木さんが解説するというスタイルだ。
この日、読み進めた竹内整一さん著「『かなしみ』の哲学」の第8章「『かなしみ』の表現」は、世阿弥の能、小川未明の童話、歌謡曲などを事例に「表現」の意味、「かなしみ」の美意識、センチメンタリズムなどを論じている。会員たちは平木さんの説明を聞いたり、自分の解釈を説明したり、その内容に共感したりして、理解を深めていた。
会の発足は1983(昭和58)年、信大名誉教授の池尾健一さん(故人)が開いた公開講座。受講生の有志が前身となる「哲学の会」をつくり、90年以降は、池尾さんに講師を託された平木さんが指導に当たっている。

目的はさまざま若い人も参加を

現在の会員は、主に松本市内の50~80代の男女約10人。「不正確な言葉を何となく使っている自分から抜け出したい」「定年退職を機に自身の人生を振り返って見つめ直したい」など、入会の目的はさまざまだ。
病気を機に入会し18年という森薫さん(80、埋橋1)は「先生と皆さんの話を聞くのが楽しみ。死への恐怖がいつの間にか薄らいだ」。入会5年目の赤羽みはるさん(65、笹賀)は「楽しくて苦しい」と笑い、「自分のとらわれた考えに気づける」と言う。
「哲学書は1人よりみんなで読むと解釈を間違えない」と話す平木さんは、「46歳から関わり、年を重ねて皆さんと話しやすくなった。私にとっても必要な会です」と笑顔。本年度末で代表を退任する望月敏通さん(70、並柳4)は「向学心に燃える市民、指導者、公民館があって続いた。これからは若い世代にも加わってもらい、一緒に生き方を学んでいきたい」と話している。
年会費2000円。毎月第1、3金曜午後2時~4時15分。入会は随時受け付ける。問い合わせは望月さんTEL090・4158・1308