サンセット鹿島槍ヶ岳と共演 幾重にも輝く虹色「花粉光環」

春らんまんだが、花粉症の人には何ともつらい季節。日本気象協会発表の花粉飛散情報によると、今春の関東甲信地方は「非常に多い」という予報だ。その花粉がつくり出す、太陽の周りに幾重にも輝く虹色の環(わ)を、ご覧になったことがあるだろうか?鹿島槍ケ岳のサンセットでこの神秘的な光景に初めて出合い、撮影に成功した。

「悪魔のサークル」異名もあるが…

【驚きの虹色の環は「花粉光環」】
3月14日、鹿島槍ケ岳の双耳峰(そうじほう)の間に夕日が沈む「ダイヤモンド鹿島槍」を撮影するため、小川村を訪れた。午後5時18分、構図を決め、試し撮りをしてびっくり。太陽を中心に、周りに幾つもの虹色の環ができている。
翌日、現地で出会った長野市の写真家・増田恵さんが「あの虹色の環は、花粉光環(かふんこうかん)と呼ぶそうです」と教えてくれたので、どういう現象か調べた。
花粉光環は、花粉の粒子によって太陽光の「回折(かいせつ)」(波が障害物に遮られた時、その物陰の部分にも波がまわりこんで伝わる現象)が生じ、色が分かれて(分光)見える現象。
虹色の環が幾重にも、太陽を囲むように見えるのが特徴で、花粉の飛散量が多いほど、色鮮やかにはっきり見える。二重、三重、四重に見えても、色の配列は波長が長い赤が常に外側にある。
太陽光が水滴(雨粒)で「屈折」する虹の場合は、色が濃い主虹と、その外側にできる一回り大きく薄暗い副虹は色の配列が逆になるため、虹でないことは容易に分かる。
予報では、県内の花粉の飛散は3月上旬のスギから始まり、下旬から4月にかけてヒノキが加わる。嫌われものの花粉がつくり出す虹色の環は、「悪魔のサークル」という異名もあるらしい。近年知られるようになり、まだ知名度が低い花粉光環だが、撮影していると元気を与えてくれる「癒やしのサークル」のようにも見える。「初めて見る衝撃的な美しさ」と、自然写真家の小山喜友さん(71、千曲市)は連日、撮影に訪れていた。
【花粉光環と鹿島槍ケ岳の共演】
撮影は、天気予報と花粉情報を連日チェックしながら行った。ダイヤモンド鹿島槍を狙い、花粉光環との共演も撮る、うまくいけば一粒で二度おいしい撮影だが、シャタースピードや絞り、感度、光の量を減少させるNDフィルター等々、条件によって異なる設定や器材の、素早い切り替えが必要だ。
花粉光環の光は淡い。降雨後の晴天日が狙い目だ。湿度が低く、スギ花粉が大量に飛ぶ風の強い日が撮影に好適だが、この条件に当てはまる日は、意外に少なかった。
夏至に向けて移動する太陽を追い、撮影地点を毎日変える。車中泊しながら風を感じて空気を読み、一瞬の撮影に備えた。
チャンスが巡ってきたのは3月19日。花粉光環の鮮やかな虹色の環に包まれ、夕景の鹿島槍が際立った。この山を撮って半世紀になるが、これ以上に壮麗な姿を私は知らない。会心の1枚が撮れた。