
真ん中にぽっかり穴の開いた紙、ジグザグに切り離された紙…。普段は捨ててしまう物が、美術家の感性で生まれ変わって、新たな造形を生み出す。
現代アーティスト義家麻美さん(29、木祖村)の個展「贅沢(ぜいたく)な○○」が、ギャラリーカフェS(ソ)OM(マ)A(木曽町福島)で開催中だ。
「○○」は画用紙の空間を表す。木曽町中学校(同町新開)で美術を教えながら、授業で生徒が切り取った画用紙を集めて型紙にし、木版画を制作した。
武蔵野美術大(東京都)を経て他の業種で働きながら創作活動を続け、芸術祭「木曽ペインティングス」への参加がきっかけで木祖村に移住した。
新作の木版画や描き続けてきたドローイングなど約60点を展示、郡内で初の個展だ。
生徒からの刺激作品へとつなぐ
ギャラリーカフェSOMAの2階。壁に掲げられた木版画は不思議な模様とポップな色合いが印象的だ。ぎざぎざの形は「活火山」、白い丸がピンクに浮かぶような「冬のマシュマロ」…。ユニークな作品名が付いている。「自分だったらどんなタイトルを付けるかな…と楽しんでもらえたら」と義家麻美さん。
木曽町中学校の美術非常勤講師。画用紙を切り取って本の表紙などを作る授業で、画用紙の真ん中に「○」だけを切り取って捨てるなど、生徒の大胆さに驚いた。
自分だったら、画用紙を節約して端から模様を詰めて描いて切り取るのに…。そう思いながらも、切り抜かれた紙を見ていると、「生徒が目の前の画用紙だけに集中してできた形やその時間に、ぜいたくさとうらやましさを感じた」。この思いが個展のタイトル「贅沢(ぜいたく)な○○」へとつながった。
生徒から刺激を受けつつ、何に見えるか、並べてみるとどうかなど、イメージを膨らませながら10作品を制作。木版画は色を重ねることが多いが、形の面白さを生かすために、あえて重ねなかったという。
郡内の芸術祭がきっかけで移住
長野市出身。武蔵野美術大油絵学科を経て、都内や長野市で働いた。同大講師、岩熊力也さん(53、木曽町日義)が、美術家が郡内で滞在制作する芸術祭「木曽ペインティングス」を企画していることを知った。
地域の人と関わりながらの創作に魅力を感じ、2018年から参加。ゆったりした木曽の雰囲気の中でアートに携わりたいと、20年に移住した。
美術家はどうあるべきか?と、迷い悩みながらもこつこつ続けてきた創作活動。岩熊さんは義家さんを「日常の淡々とした時間を大事にする作家」と評する。形にとらわれず作りたいものと自由に向き合うようになったことで、創作が面白くなってきた。
今回はそんな自由さが現れた木版画と、これまで積み重ねたドローイングの数々が並ぶ。「カフェで飲み物を選ぶような感覚で、その日の気分で気に入った作品を見つけてもらえれば」と話す。
5月30日まで。カフェの営業は午前10時半~午後4時半、ギャラリーは入場無料。定休日は水・木曜。土・日曜と祝日は不定休。