発酵のイロハ見て触れ学ぶ―大信州酒造で酒かすに注目したイベント

肌整える酒かすにほれ込み

コロナ禍を経て、免疫力を上げるための「腸活」という言葉が頻繁に聞かれるようになった。みそや納豆など、日本古来の発酵食品にも改めて注目が集まっている。
発酵食品の一つで、日本酒製造の現場で産業廃棄物として扱われることも多い「酒かす」に注目したイベント「発酵とあそぼ!」が3日、松本市島立の大信州酒造で初めて開かれた。
子どもと、その食を担う母親が一緒に、酒かすを使ったパンとせっけん作り、普段は入れない酒蔵の見学を通して、発酵の仕組みや菌の大切さを、見て触れて学んだ。
仕掛け人は、同市でせっけん教室「ForU lab(フォルラボ)」を運営する、古田光代さん(40)。せっけんの原料を探す中で同社の酒かすと出合い、生まれたコラボ企画だ。

酒の造り方は?親子で学ぶ機会

初開催のワークショップ「発酵とあそぼ!」。3年前に完成したばかりの大信州酒造の新蔵(しんぐら)に3日、親子12人が集まった。
最初に、こうじで作った甘酒を全員で味わう。「甘いね」と顔を見合わせる親子に、醸造課長の森本貴之さんが「砂糖は入れていなくて、こうじ菌がお米のでんぷんを甘く変化させたんだよ」。
古田光代さんも、酒かすの匂いは「発酵」という物質を分解する過程で生まれたもので、それは人間の体内でも起きていると、子どもたちが興味を持てるように説明。その後、酒かすを酵母に使ったパン生地をこね、酒かすが入ると保湿効果が高いというせっけんも練って、思い思いの形にした。
酒蔵では段階的に温度管理されたこうじ室(むろ)に入り、こうじ菌を見せてもらったり、発酵中のもろみタンクの大きさに驚いたり。酒造りの過程を知り、そこから出る酒かすも扱うプログラムで、発酵の仕組みや菌の大切さなどを学んだ。
参加した藤井佳奈さん(39、松本市)は「発酵食品には興味があり取り入れたいと思っていたが、こうじや酒かすに触れる機会はあまりなかった。理解が深まり、普段できないことができて楽しかった」。息子の元気君(7)も「こねるのが楽しかった」と笑顔を見せた。

日本酒離れや担い手対策に

3年前から手作りせっけんを学び、教室「ForU lab(フォルラボ)」を運営する古田さん。きっかけは産後、自身と次男に現れたアトピーだった。
勉強して分かったのは「アトピーの人は皮膚の常在菌のバランスが崩れ、悪玉菌が多い」ということ。市販の洗剤に含まれる界面活性剤も一因と知り、肌にも環境にも優しい手作りせっけんがライフワークになった。
さまざまな素材を試すうち、皮膚のバランスを整える働きがある酒かすの良さに気づき、中でも大信州の酒かすにほれ込んだ。漬物用などの需要が減って廃棄されている実情を知り、この酒かすを活用したせっけんを委託製造して販売。縁がつながった。
今回のイベントは酒蔵にとっても、小さいうちから酒造りの仕事を知ってもらい、日本酒離れが進み担い手が減る現状への対策になる。古田さんは「お酒が発酵でできると知りイメージが変わった、酒造りをもっと知りたいなどの感想を頂いた」と手応えを語る。今後も各種イベントを企画していく考えだ。
詳細はインスタグラム(foru.lab)で。