個性豊かな本屋月1の自己表現―アートセンターで書店集う催し

本を通した表現実践する舞台

松本市中心部に新しい“複合書店”ができた。場所は、美術・芸術大学を目指す学生が通う予備校「マツモトアートセンター」(大手1)。月1回、4階建てビルのあちこちで、個人の本屋さんたちが店を開く企画だ。
第1回のオープン日の8日。ビルの入り口には、料理本と野菜を売る棚ができていた。入って階段を上ると、踊り場に社会派エッセー集がそっと積まれていた。屋上に出ると、青空の下、哲学書や冒険小説、写真集が風に吹かれていた。
個性豊かな本屋が、定期的に集まり、気ままに店を構える。自己表現としての本屋をうたうイベントの名は「月イチ マツモトブックセンター」。次回オープンは5月28日。これから参加店を増やしていきたいという。

新しい価値を発見する場に

マツモトアートセンター代表の北澤一伯(かずのり)さん(72)は、自費出版も手がける。「本を出すことは表現の一つ」。現代美術を探究する場である校舎ビルを、本を通した表現の実践の舞台にすることを思い付いた。
この「月イチマツモトブックセンター」の企画に乗った一人が山田進さん(49、安曇野市穂高)。印刷会社で働きながら、週末に移動書店「かえるBOOKS(ブックス)」を営む。「本を売るというよりメッセージを伝えたい。新しい価値観を発見してもらえれば」
このビルは以前から知っていて、「屋上を使いたい」と思っていたという。野天で展覧会を開くイメージ。多様なジャンルのこだわり本を並べたが、ぼんやり見てもらってもOK。本棚の脇に椅子を置き、入れたてのコーヒーも用意した。

多様な業種や人つなげる機会に

織田倉悠さん(40、松本市中川)はメーカーの会社員をしながら、「noradoko(のらどこ)」の屋号で、料理本と一緒に地場の野菜や調味料の移動販売をしている。
東京の出版社に勤めていたが、10年ほど前に移住してきた。近所でできる無農薬野菜が、地元で流通していないことに気づく。食に関する本づくりに携わっていた経験を生かし、のらどこを始めた。
今回は、本がメインのイベントで農産物を知ってもらう機会となる。「異なる業種がリンクするのが面白い」と織田倉さん。のらどこの魅力を毎月、同じ場所で発信できる。
殺風景なビルの前に新鮮な野菜や果物と大型の料理本という取り合わせ。通行人が足を止め、イベントの看板に導かれて屋上への階段を上る人もいた。
「本集めにはその人が現れる」と話したのは中田晶さん(55)。自らも「アカンサス書店」の名前で本を売っている。「いろんな人とつながりたい」と次回以降の出店を考え始めたという。
月イチブックセンターは11月まで。展開の詳細はインスタグラムで見られる。