【ブドウ畑に吹く風~記者のワイン造り体験記】#1 今季の幕開け剪定作業

丁寧に成長の先読む難しさ

北アルプス・穂高連峰が見える、松本市笹賀の「ガクファーム&ワイナリー」。2月末、オーナーの古林(こばやし)利明さん、いつ子さん夫妻が畑で作業をしていた。今季の幕開け、ブドウの木の剪定(せんてい)だ。「いよいよ始まったなあ、という感じ。畑に出て日差しを浴びるとワクワクしてきます」
自宅南側の25アールの畑には、「垣根仕立て」で1メートル間隔に木が整然と並ぶ。ワイナリー開業4年目、苦労して苗木から育てた木も5歳とまだ若い。
「ワイン造りはブドウ8割」と聞く。唯一の原材料・ブドウの品質や味が、ワインの出来に結びつくという意味だ。つる性で、どこまでも伸びる樹勢を管理し、糖度が高く良いブドウを実らせるため、剪定はとても重要だ。古林さんは「木の特徴を思い返しながら作業している」と、一本一本丁寧に向き合う。
木の幹からは、Y字型に横に這(は)わせた枝(結果母枝(けっかぼし))から上に立ち上る10本の枝が背丈ほどに伸びている。長梢(ちょうしょう)剪定は、その10枝から今年の母枝となる2本を残し、他は切り落とす作業だ(品種により短梢剪定を行う)。
聞くと簡単そうだが、実際はそうではない。(1)地上約65センチに張られたワイヤより低い位置にあり(2)左右どちらかに直角に曲げられる向きに生えていて(3)節(新芽が出る部分)がたくさんあり木の充実度が高い枝|となると、選択が難しい。剪定で樹液の流れも変わる。成長の先々を読む経験が必要だ。
実際に記者もやってみると、難しさに苦戦することとなる。

ワイナリー数や生産量、そして品質でも、今や全国一の山梨県に迫る勢いの長野県のワイン。小規模製造(年間2千リットル以上)でも酒造免許が取れるワイン特区が広がり、中信地区も老舗や大手に加え、個性的なワイナリーが参入して活況を見せる。ワインができるまでの一年を、記者が体験し伝える。

【ガクファーム&ワイナリー】
塩尻ワイン大学1期生として学んだ古林利明さん(64)が、松本市では初の個人ワイナリーとして2020年に開業。約10品種を栽培、気候や土壌など「その土地らしさ」にこだわったワイン造りを模索する。http://gakufarm.jp