【ブドウ畑に吹く風~記者のワイン造り体験記】#2 剪定は「子どもの世話」

数年後も予測難問に苦戦

「ブドウ栽培は子育てに似ている。木にも個性があり、個性を見極めながら育てる必要がある」と、ガク・ファーム&ワイナリーの古林(こばやし)利明さんは話す。成果が出るのは、実が熟す秋か、木が立派に育つ数年後か。人間の子育てと同じように先が長く、奥深い。
子どもの世話ともいえる剪定(せんてい)を、記者も体験した。まずは長梢(ちょうしょう)剪定から。白ワイン用ブドウ品種の代表格、シャルドネの木の前で、「どの2本を残す?」と古林さん。この枝は位置が高過ぎる。これは太過ぎ、こちらは細過ぎて頼りない。1分ほどうーんと考えるが、答えが出ない。
アドバイスを得て決めた2本を残し、剪定ばさみで根元より先をチョキンとカット。直径1センチ弱の枝にはさみを入れると、手応えと音が小気味よい。
次の木でもどの2本にするか迷う。毎回が難問のクイズのようだ。「正解は一つではない。来年はこの芽から育つだろうとか、数年後も予測しながらの作業です」と古林さん。
今年の母枝となる2本を残したら、それ以外は潔く全部落とす。ワイヤに絡むつるを剥がすのも、なかなかの労力だ。2本の母枝はテープで誘引、そこから新梢(しんしょう)が伸び、ゆくゆくは房を付ける。
剪定を冬に行うワイナリーもあるが、古林さんは「遅めの方が新芽への霜を防げる」と考える。
今春は、桜が史上最速で開花。3月末の汗ばむ日に、白ワイン原料の中でも酸味が少なく濃い味の品種、ピノ・グリの短梢剪定を別の畑で体験した。
前回の長梢剪定に比べると単純明快な作業だ。去年の新梢の根元に1、2の芽を残してひたすら切っていく。春のこの時期になると、木に樹液が回り始め、切り口から「ブドウの涙」と呼ばれる樹液がにじみ、したたり落ちる。ブドウ畑の春の風物詩だ。
単純作業を繰り返し、すっきりした木々を見て、ひとときの充実感に浸る。自分が剪定した木がこの後、どう育つのか。仮の親としても楽しみだ。