
演劇をやりたい人の窓口に
「組んだ人と相談して動物を演じ、見ている人に当ててもらいます。準備はいい?3、2、1、はいっ」
女性の指示に合わせ、動き始めた2人。1人は腰を落とし緩く曲げた肘を前後に揺らして歩き、もう1人は膝を抱え小さく歩を進める。上半身を前に倒し、片手の指先で床を素早く突いて起き上がると、会場から「ツル!」と声が飛んだ。正解だ。拍手と歓声が劇場に響いた。
松本市大手4の上土劇場を拠点に活動するまつもと演劇連合会は11日、全7回の演劇ワークショップ「ぴかぴか芝居塾2023」を同劇場で開講した。2003年に初めて開き20回目。累積受講生は360人を超え、今回は9~45歳の男女16人が参加する。「目的は一貫して演劇の楽しさだけを体験してもらうこと」という同塾を訪ねた
。
ゲーム楽しんで互いを知り合う
松本市の上土劇場で11日に開かれた演劇ワークショップ「ぴかぴか芝居塾2023」の初回。この日、講師を務めた劇団HOME代表、神戸カナさん(37、塩尻市北小野)は、この塾の8期生でもある。
参加者は神戸さんの指示で自身の名前や、その場で組んだチーム名をダンスで表現したり、チームを組み替えて動物を演じたり。「青」「星」といった言葉から同じものを連想した人同士で国を作り、領土拡大を狙って他国と協議するゲームもした。タイムキーパーが時間を区切り、間髪入れずに展開するさまざまなゲームを楽しみながら、互いを知り合っていった。
3期生の父親の勧めで参加した新谷日和さん(筑摩野中2年)、大和君(芳川小4年)姉弟は「緊張したけど楽しかった」と目を輝かせた。日和さんは「動きや言葉で相手に気持ちを伝えるところが演劇に通じると思った」。大和君は「領地争いで意見を戦わせたのが面白かった」と話した。
神戸さんが講師を務めるのは4回目。毎回「島の暮らし」「祭り」といったテーマを設け、技術よりコミュニケーションに重きを置いた内容にしているという。今回のテーマは「天体会議」とし、具体的な内容は当日まで明かさない。同連合会会長の永高英雄さん(60、笹賀)は「演劇に限らず、『親しい人をつくりたい』という目的で参加するのもいい」と話す。
市内外の劇団3倍以上増加
同連合会は1987年に松本市制施行80周年記念事業の一環として開催され、95年に閉幕した「松本現代演劇フェスティバル」を引き継ぐ形で、96年に8劇団で発足。「松本アマチュア演劇祭」(現・まつもと演劇祭)と銘打って活動を続けたが、仕事や子育てなどの理由で地域の劇団が減少していった。そんな中、当時副会長だった永高さんが「演劇の裾野を広げよう」と発案したのが、この芝居塾だ。
当初はあがたの森文化会館(県3)や、開館したばかりのまつもと市民芸術館(深志3)などを会場に、40人近い受講生を集めた。受講後に劇団員になった人や、神戸さんのように同期生で劇団を立ち上げた人もいて、現在の同連合会には市内外の26劇団が所属。発足当時の3倍以上に増えており、約70人いる会員の半数が塾の受講生という。
永高さんは「連合会には上土劇場の機材を使える人が複数いるので公演をうちやすく、演劇をやりたい人の窓口として中核的な行事になった。塾がなかったら、今は(連合会自体が)なかったと思う」と感慨深げだ。
毎回、芝居塾の最終日は観客を入れて発表会を開く。神戸さんは「小道具や照明も自分たちで考えて、初めてでもお芝居がつくれることを見てもらいたい」と話している。
今回の発表会は30日午後3時~3時半。無料。問い合わせは同連合会事務局電話070・5595・5080