
発達障がいの当事者で、松本市で「グループホームここっち」(石芝3)を運営する山口政佳さん(47、県3)が初の著書「ADHDの僕がグループホームを作ったら、モヤモヤに包まれた」(明石書店)を発刊した。支援をする側・される側両方の立場で感じた「モヤモヤする気持ちの悪さ」が執筆のきっかけで、障がい者福祉のかたちを問いかける内容になっている。
「障がい者のありよう」「支援者や家族のありよう」「当事者も支援者もハッピーでいられるためには?」と三つのテーマで展開。山口さんが自身の特性と歩んだ半生や、福祉現場での疑問をつづった。
24歳で受けたADHD診断
北海道出身の山口政佳さんは、24歳の時に注意欠陥多動性障害(ADHD)と診断された。親族の子どもの保育園送迎を頼まれていたのに毎日忘れてしまう様子や、うつのような症状を見ていた保育士が「苦しいね、お医者さんに行く?」と医療につなげてくれたのがきっかけだった。
28歳で親族と信州に移住し、ホテルの厨房(ちゅうぼう)やヘルパー資格を取り介護施設などで働く傍ら、背景が共通する人同士で話を聞き合うピアカウンセリング講座に参加。障がい者相談支援センター「ぴあねっと・まつもと」(双葉)の降幡和彦所長と知り合った縁で、同所で発達障がいなどに関わる相談員を約10年務めてきた。
2018年に「自分が欲しかったような、生活支援や安心できる場をつくりたい」と、同業者らとグループホームを立ち上げた。現在は5人が入居し満室だ。
5年がかりで念願の本完成
山口さんが本格的に福祉現場に身を置くようになって感じたのは、当事者と支援者がいい協力関係を築けている現場もあれば、それぞれの思いや要求がかみ合わず苦しんでいるケースも多いということだった。
福祉サービスは当たり前というような風潮や、つい心配から周囲の人たちが「障がい者が失敗する権利」を奪ってしまっているようにも思える状況、福祉現場が疲弊してしまうことへの危機感。この世は自分が障がいのあるまま生き続けていける所だろうかという不安もあった。
「このモヤモヤを何か形にしなくては」。元主治医で児童精神科医・北海道大名誉教授の田中康雄さんに相談したところ、信頼できる編集者として中野明子さん(諏訪市)を紹介された。
「僕のとりとめのない話を聞いて、頭の中が見えているかのようにまとめてくれたのが中野さん」と山口さんは振り返る。田中さんも対話形式で専門的な視点を提供し、5年がかりで本が完成した。布造形作家の高倉美保さん(岡谷市)の、独創的な縫いぐるみが表紙を飾る。
現状の障がい者福祉への疑問を提起する本書だが「すっきりする解決案や答えは書いてありません」と山口さん。「支援者や家族が読んで『このモヤモヤは自分だけじゃないんだ』と思ってもらったり、みんなで考えたりするきっかけになれば」
グループホームの運営も試行錯誤しながら5年目。入居する30代の男性は「それぞれの個性に理解があり、共同生活は快適」という。山口さんは「当事者や子どもたちが、楽しいと思いながら生きていける世の中であってほしい」と話す。
1760円。Amazon、楽天ブックスなどで販売。