松本に伝わる葛飾北斎の画風―県立美術館で7月から特別展

江戸時代後期の天才絵師・葛飾北斎の画風が松本に―。7月1日から長野市の県立美術館が開く特別展「葛飾北斎と3つの信濃―小布施・諏訪・松本」。そこで展示される一つが、北斎の高弟で松本に移り住んだ抱亭五清(ほうていごせい)(砂山抱亭)が描いた絵馬だ。
深志神社(松本市深志3)が所蔵する「神功(じんぐう)皇后と武内宿禰(たけしうちのすくね)」。文政8(1825)年6月に奉納された。
「当時の江戸で知られた絵師が描いた絵馬は、信州にはあまりなく貴重。間接的ではあるが、北斎の画風を松本に届けたという点で非常に意味がある」。県立美術館主任学芸員の上沢修さん(50)は、こう評価する。
五清の弟子が描いた潮干狩りの絵馬(同市会田の御厨神明宮所蔵)など2点も出展。北斎と松本の関連を考える好機となりそうだ。

北斎と松本関連考える好機に

深志神社の境内北側で、普段は閉じられている絵馬殿。2日、建物内に展示された55枚から「神功皇后と武内宿禰」が取り外され、県立美術館の特別展に送られた。
この絵馬は2006年、松本市美術館で開いた絵馬展に出品された。市外へ出るのは今回が初めてだ。
「松本では知られた絵馬だが、市外へは出たことがない。存在がより広まる機会が得られ、大変ありがたい」。引き渡しに立ち会った宮司の牟禮仁さん(74)は、感慨深げに話した。
77×99センチの絵馬には、甲冑(かっちゅう)をまとった皇后と、赤子を抱く武内が描かれる。皇后は武勇に優れ、夫の14代仲哀(ちゅうあい)天皇の死去後、忠臣の武内と共に三韓征伐(朝鮮半島への出兵)に。帰国後、皇子(応神天皇)を出産したと伝わる。
作者の抱亭五清は北斎の弟子で、江戸では知られた浮世絵師。文政2(1819)年に松本を訪れ、生安寺小路(現在の高砂通り)をついのすみかとし、天保6(1835)年に亡くなった。北斎の画風を受け継ぎつつ、松本に移り住んでからは独自の美人画を確立し、多くの作品を残した。
県立美術館主任学芸員の上沢修さんは「松本城下の人々が経済的にも文化的にも高い素養を持ち、江戸の浮世絵師を受け入れる環境を整えていたことになり、当時の文化度の高さを示している」と解説する。

五清の絵馬と共に特別展で展示される四賀地区の絵馬「潮干狩之図」と、掛け軸「常光寺紙本著色釈迦涅槃(しゃかねはん)図」(所蔵者非公開)の2作品は、五清の弟子(北斎の孫弟子)とされる北鵞齋弘探(ほくがさいこうたん)が描いた。
潮干狩之図は天保2(1831)年の作。「海のない信濃の人たちには、珍しい風景と感じられたのでは」と市教委文化財課。釈迦涅槃図は天保13年に描かれた。
弘探は旧四賀村を中心に作品が幾つか残され、僧籍の身ながら絵師として活動した人物だと分かっている。
北斎と松本に直接のつながりはない。しかし、五清、弘探という北斎の系譜に連なる浮世絵師が、北斎の絵のエッセンスを伝えた。「信州では小布施と並び、北斎を感じられた希有(けう)な地域だった」(上沢さん)とみる。

【メモ】
特別展「葛飾北斎と3つの信濃」は、信濃毎日新聞創刊150周年を記念。「冨嶽(ふがく)三十六景」など北斎の作品を展示するほか、北斎が晩年に滞在した小布施、信濃の風景として描いた諏訪、弟子が活動した松本に焦点を当てる。
前期は7月1~30日、後期は8月3~27日。多くの作品を入れ替えるが、松本の3点は通期で展示する。
前売券は1400円、2枚セット券2600円(一般のみ)。県立美術館、松本市のキッセイ文化ホール、信毎メディアガーデン1階などで取り扱う。
当日券は一般1600円、中高生800円(小学生以下無料)。県立美術館TEL050・5542・8600