
氷河圏谷にテントの花 ごみと命は持ち帰ろう
大型連休でにぎわった北アルプス涸沢。今春は上高地からのルート途中にある沢が大きな雪崩に埋もれ、例年なら連休前に設置されるつり橋(本谷(ほんたに)橋)が架けられない、過去にない事態が発生した。一方で標高2300メートルの山上は、今年もカラフルなテントの花が咲いた。4~6日に滞在し、ウィズコロナ継続中のカール(氷河圏谷)をカメラでスケッチした。
雪崩でつり橋架けられず
【つり橋がない⁉】
横尾から涸沢へ向かう途中の、横尾谷に架かる本谷橋(毎年5~10月に設置)。4日午前9時40分、現場に着き、目の前にはだかる雪の山に驚く。先行するパーティーが「つり橋がない」と騒いでいる。
アイゼンを付けて登ってみると、横尾尾根を発した大雪崩により運ばれたデブリ(雪塊)で、本谷橋を架ける場所が埋まっている。全層雪崩は太さ50センチもあるダケカンバや岩、石も巻き込み、その脅威を見せつけていた。
「つり橋になる前から半世紀見てきたが、これほど大規模な雪崩は記憶にない」と、山小屋「涸沢ヒュッテ」の山口孝会長(74)。石や木が交じるため、取り除くのに重機や除雪機は使えない。同ヒュッテの小林剛社長(59)は「登山道の安全対策もあり、涸沢の山小屋2軒が協力し、人力で両岸の基部を掘り出し、早急に橋を架けたい」とする。
松本市アルプスリゾート整備本部によると、初代のつり橋は1999年12月(運用は翌年5月から)、現在の2代目は2019年5月末に、それぞれ完成した。
【天と地の光の共演】
5日午前2時55分、気温は氷点下1度。山の朝は早い。240張りのテントに明かりがともる。赤、黄、青─。おとぎの国を連想させる明かりが、周囲の雪上を染める。5月の涸沢ならではの光景だ。
月没が近い空に浮かび上がる、標高3000メートルの稜線(りょうせん)に向かい、山肌に2本の光が続いている。右は北穂高岳、左は奥穂高岳へ向かう登山者の、ヘッドライトの明かりだ。仰ぎ見ていると流れ星が一筋、天空を走った。
【マナーを守ろう!】
5日午前9時。登山者が去ったテント場で、涸沢ヒュッテと涸沢小屋の従業員が一斉清掃を始めた。同行すると、雪上や雪中に捨てられたごみに驚く。最も多いのは、テントを固定する「ペグ」代わりに使った割り箸だ。
マナーを守る登山者が多いが、守らない人も一部おり、缶詰やビールの空き缶、壊れたスコップも。以前に古いテントもあった。ハムやウインナーなどの残った食品を、雪の中に埋める“目隠し作戦”も後を絶たない。
雪解けが進むと、食べ物が次々と出てくる。突然、前穂高岳北尾根側で「カーカー」と、2羽のカラスが鳴いた。涸沢のテント場がごちそうだらけの“冷蔵庫”だと知るカラスが、この時期になると飛来するのだ。
北アを舞台に、山岳救助のドラマを描いた漫画「岳」の主人公、島崎三歩(さんぽ)は語る。山に置いてきてはいけないものが二つある、それは「命」と「ごみ」。山登りをする人は、この言葉を心に留めておきたい。
(丸山祥司)