87歳 初めての朗読会

「皆さんの前で読みたい本がたくさんある。このままでは悔いが残る」。松本市の武者賢次朗さん(87、沢村)は、市内のギャラリー&カフェ「憩の森」(城山)で朗読会を初めて企画。6月16日に開く「第1回憩の森朗読会」は定員に達し、申し込みを締め切ったが、第2回を12月1日に行う予定だ。年2回、2年先まで読む作品を決めている。
武者さんは松川村の朗読の会「葦(あし)」に所属し、毎月2回の例会に、自ら車を運転して通う。ただ、いつかは自力で通えなくなることを見据えて、自分が暮らす松本で朗読会を始めようと思い立った。
「趣味とはいえ、終活のために何でもやめたくなかった。終活が、新しく活動を始める“就活”になってしまった」と笑う。会の名前は「憩の森『朗読日(び)より』」にした。メンバーは武者さん1人で増やすつもりもない。
朗読を始めたのは、72歳の頃。当時所属していた合唱団の演奏会で、曲と曲の合間の朗読を任されたことがきっかけだ。「自分の声が会場の隅々まで響き、とても気持ちがよかった。こういう世界があるのかと知り、私の人生が変わった」と振り返る。
数年間、カルチャーセンターなどで学び、県内の朗読コンクールで銀賞を受賞したことも。「自分の声を通して、自分の気持ちが素直に伝わっていくのが魅力」。息遣いが伝わる小さな会場を好む。
今年は自主企画以外にも、幾つかの朗読会に出演を予定。小休憩を挟んで1時間読み続けるのはざらで、体力勝負だ。ほぼ毎日1時間半、本を読む練習をし、健康維持のために妻と一緒に1日1万歩を歩くことを目標としている。朗読のために日々鍛錬を重ねる。
16日の朗読会には仲間の市川さつきさん(安曇野市)も出演。武者さんは父親と息子のせめぎ合いを描いた伊与原新さんの「月まで三キロ」を読む。「物語を通して、日本の社会問題を投げかけたい」と意気込む。