「信州キッチンカーフェスティバル」仲間との絆紡ぐ牟禮和貴さん

今や野外イベントには欠かせない、キッチンカー。松本市美須々の牟禮(むれ)和貴さん(27)は、県内最大のキッチンカーの祭典「信州キッチンカーフェスティバル」を運営する。
会場は塩尻市の平出遺跡公園。手探りで始めた第1回の昨年は、出店63店舗、約5千人が来場した。今年5月の2回目は、91店舗から応募があり、抽選で80店舗に。雨天でも2日間で約5千人が訪れる人気イベントとなった。
自身も「ケバブ」のキッチンカーを営業し、各地のイベントに出る。元高校球児。小池コーポレーション(長野市)運営のジュニアバッティングスクール信州で、中南信地区の子どもたちを指導、県高校野球連盟の審判員も務める。
「自分が3人欲しい」と笑う。その原動力は。

松本工業高校に通い甲子園を目指していた牟禮和貴さん。卒業後、食品工場に勤めたが、不規則な勤務時間などで体調を崩し休職した。「半年引きこもりました」
その時に外に連れ出してくれたのが、共に甲子園を目指した仲間だった。仲間の支えで復職したが「大人になって苦しむことになっても、支えてくれる仲間がいる」と実感。「野球やスポーツの素晴らしさを伝える仕事がしたい」と3年半勤めた会社を退職した。
その後、念願だったスポーツを指導する仕事に就いたが、コロナの影響を受けて失業。スポーツジムでアルバイトをしていた時に、キッチンカーの「アルバイト募集」の文字を見つけ、仲間と始めた。仕事は楽しかったが、1年ほどで運営会社が倒産してしまう。
なかなか思うようにいかない日々。たまたま軽井沢町で出会ったケバブのキッチンカーのオーナーと話をするうちに「古いキッチンカーがあるから、良かったら安く譲るよ」。その言葉に、自分でキッチンカーを始めると決めた。古い車に手を入れて、昨年1月、25歳で営業を始めた。
「土日にしっかりやろう」とイベントに参加。新参者の自分にキッチンカーの先輩が良くしてくれた。「頑張ってと応援されて元気をもらった。何か恩返しをしたい」。そう考えて思いついたのが、キッチンカーが一堂に集まるフェスティバルだった。
場所探しをする中で出合ったのが、塩尻市の平出遺跡。担当者や地域の人たちの協力で昨年初めて開催した。参加者の募集から当日の交通整理まで全て1人でやった。想像以上の人が集まり混乱している所に、協力を申し出てくれたのは、やはり野球仲間だった。大変だが「店舗、お客さん、地域の人、みんながハッピーになれるような場所にしたい。そこに向かっていく過程が好き」と話す。
第2回の今年は、協力者も増やしてゴールデンウイークに開催。奮闘する牟禮さんの姿を見た地域の人たちから「お祭りにキッチンカーを出してくれないか」。そんな依頼も来るようになった。今年は11月に長野市でも開催する。いずれは年に4回、中信、南信、北信、東信で開催するのが目標だ。
キッチンカーを始めると決めた頃、「ジュニアバッティングスクール」を知った。「働きたい」と社長に直談判。平日、小中学生にバッティングを指導している。「子どもたちの上達や、コーチのおかげで打てたよと報告してもらえることがうれしい」
もう一つの顔は高校野球の審判。「甲子園への夢は、審判でかなえよう」。そう思い20歳から始めた。「はつらつとした高校生と一緒にグラウンドに立つと元気をもらえる」
「自分のもらった元気を、違う形で還元する」。仲間への感謝の思いが、牟禮さんを動かす。