本の募金箱をきっかけに貧困問題をみんなで考える-パン店兼書店・サパンジ

松本市大手2のパン店兼書店「サパンジ」のレジ横に、赤い募金箱がそっと置かれている。金銭的な余裕のない人が、募金を使って店内の本を購入することができる。「自己責任論が強くなってきている日本の嫌な空気を、少しでも明るくできたら」。貧困問題をみんなで考えるきっかけにしたいと、店主の白澤渉さん(42)が設置した。
貧困が自己責任で片付けられてしまうが、そうじゃない-。白澤さんは、人から受けた親切を別の人へ新しい親切でつないでいく「ペイフォワード」や「利他」という考え方、子ども食堂の取り組みなどをニュースや本で知る中で、サパンジとしてできることはないかと考えてきた。自分は生活に困ることなく恵まれて育ったという後ろめたさも、原動力の一つにある。
「だれかの或(ある)いはあなたの本の募金箱」と名付けた。箱の前にある手のひらサイズの石の裏に、貯(た)まった金額が書いてある。利用したい人はレジで本と一緒に石を渡す仕組みだ。利用しやすさをスタッフと考え、石を介在させることにした。始めて約3カ月。総額1万円ほど寄付され、利用は数件あった。
「昔、日本の酒場では、代金を支払えないと伝票を店内の串に刺して帰り、伝票がたまっているとお金のある人が支払ったという話を聞いて、いいなと思った」。余裕のある人が支払えばいい-。この募金箱へお金を入れるかどうか、もしくは利用するかどうかの判断は、金銭に余裕があるかないかというシンプルな基準だけだ。
白澤さんは思春期の頃、読んだ本の内容と自己を重ね合わせることで苦しみや迷いから救われてきた。本がなかったら今の自分は考えられないという。
食べることの方が切実な問題で、貧困がこの活動で解決できるわけではない。「でも、利用した人がその一冊で救われたらいい。他にも活動が広がっていけばとも思う」
営業は午前8時~午後6時。日曜休み。サパンジTEL0263・87・6002