
海釣りの楽しさ知ってほしい
海のない信州出身の男性が、海をこよなく愛し、釣りに魅せられ、釣り船の船長になった─。
前澤孝信さん(39、松本市井川城)は、新潟県糸魚川市の市振(いちぶり)漁港を拠点に、釣り客を乗せる遊漁船の営業を始めた。
子どもの頃から釣りが大好きで、父に連れられて行った糸魚川市一帯の海岸は「遊び場」。大人になって沖釣りを知り、さらに魅力にはまった。
「海のない、長野県の人に海と釣りの楽しさを知ってもらい、仲間の輪を広げたい」。こうした思いを実現させるため、愛艇に付けた名前は「OCEAN CREW(オーシャン・クルー)」。
「海は『宝の山』です」と笑う前澤さん。8月いっぱいは、釣り人の人気が高い大型魚、クロマグロを狙って、大海原を駆け巡る。
快適さこだわり 最新クルーザー
6月下旬。前澤孝信さんが始めた遊漁船の拠点、市振漁港には、何隻もの漁船が停泊する。「ここにいると穏やかそうに思えるが、沖は風が強く白波が立っている。今日は船は出せません」。残念そうにこう語る前澤さん。傍らには、愛艇「OCEAN CREW」が静かな波に揺れている。
他の漁船などとは明らかに形が異なるOCEAN CREWは、最新のクルーザータイプで、全長28フィート(約8.5メートル)の10人乗り。船内にはベッドスペースや個室のトイレのほか、冷暖房も完備。燃料は軽油で、エンジン音は静か。スピードが出て、小回りが利くという。価格は約3千万円だ。
「この船を買う時には、『もっと大勢乗れる(中古の)安い釣り船の方がいい』と、ほとんどの漁師さんから反対された」と苦笑いする前澤さん。「仮に釣りをしなくても、こうした快適な船でのクルージングなど、(乗る人に)いろいろな楽しさを味わってほしかった」と、こだわった理由を明かした。
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物心ついた頃から、父・博章さん(73)に連れられ、糸魚川市を中心とした日本海の海岸で釣りに親しんでいた。
大人になってもその趣味は高じるばかり。決定的に魅了されたきっかけは、30代前半で経験したカヤックでの沖釣りだった。
「沖に出ると、こんなにも楽しみが大きくなるのか」とどっぷりはまり、介護士の仕事をしながら、多い時で週3回は市振漁港から「出港」。地元の漁師もびっくりの自称「釣りバカ」になった。
釣れる場所読む 船長の腕に自信
趣味を仕事にしようと思い始めたのは4年前、船舶免許2級を取得し、中古の船を購入してからだ。
「釣り仲間から『乗せてくれ』と頼まれるようになった」といい、「どうせなら多くの人に海釣りの楽しさを知ってもらいたい」と、遊漁船の経営を決意。約1年前から準備した。
前澤さんが「ホームグラウンド」にしている市振漁港の沖合は、8月まではクロマグロ、秋はノドグロ、冬は寒ブリ、春にかけてメダイと、人気魚の漁場となる。しかし、実際に釣り客にお目当ての魚を釣らせるのは「船長の腕」でもある。
「魚群探知機などで分かる魚のいる場所と、その魚が釣れる場所は違う。風向きや潮の流れを読んで、釣れる場所に船を着けられるかが腕の見せどころ」と前澤さん。「その自信はある。何といっても『釣りバカ』ですから」。海に出たいという、はやる気持ちが伝わってきた。
予約などは前澤さんTEL090・8946・8327。最新の釣果などはインスタグラム=こちら=から。