
「地域の人が兄貴・姉貴分となり、ありのままの生き方を、子どもたちに見せてほしい」。そんな願いで、塩尻市の塩尻西小学校(大門五番町)で「西小ライブ」が開かれている。
平日の休み時間を使った午前10時半から15分間、中庭や多目的室で、地域の人、保護者、児童、先生など誰でも、ジャンルを問わず出演したい人が自由に表現できる。上手下手は関係なく、失敗もいい。聞きに来るも来ないも自由。強制は一切ないライブだ。
発案は、本年度赴任した大野征二校長(55)。「立派な姿を見せたり、すごいと思わせたりするわけじゃない。楽しんでいる姿を子どもたちに見せて、大人って何だかいいなと思える場に」。思い描くのは、地域とともにある学校、誰もがそのままでいることが、自然で大事にされるライブだ。
得意な音楽など児童らに披露
6月14日、塩尻市の塩尻西小学校の多目的室で開かれた2回目の「西小ライブ」には、地元住民でつくる「大門三味線クラブ」と、「塩尻音頭」を広めようと事業者有志で結成し“塩尻の「純烈」(歌謡コーラスグループ)”を目指す「猛烈」が出演した。
ライブ専属DJ(教員)の司会で始まると、集まった子どもたちは三味線に合わせて手拍子したり、学習で使うタブレットで動画を撮ったり。「猛烈」が踊り出すと、うれしそうに後をついて踊る子、輪の中に入ったけれど気恥ずかしそうな子、周りで見ている子…。笑顔で見守る先生、張り切って一緒に踊る先生もいた。
ライブが終わり、「ちょっと失敗しちゃったな。でも楽しませてもらった」「子どもが歌える曲を練習しよう」と笑顔で帰る三味線クラブのメンバー。子どもたちに「法被着せて!」とせがまれた「猛烈」のリーダーで、会社役員で市教育委員でもある甕(もたい)剛さん(49、大門六番町)は「地域の大人たちが真剣に遊んで楽しむ姿を見て、子どもが何かを感じてくれれば」。
楽しく生きる大人の背中を
「学校は地域のもの。地域が一緒に子どもを育てようという雰囲気ができれば、きっと子どもたちは道を踏み外さない」。大野征二校長は、地域の人に学校に来てもらい、楽しく生きる大人の“背中”を子どもに見せたいと考えていた。着任して「猛烈」の塩尻音頭への熱意と取り組みを知り、甕さんに声をかけた。
共感した甕さんは「昔、子どもは市内のどこに行っても時間をつぶせたし、守ってもらえた。今は子どもが大人を、距離を取って見ている」。5月の1回目のライブでは、自ら仲間と踊りを披露。その後は知り合いに熱心に声をかけ、ライブへの出演を依頼する。休み時間内で終えるなど、教職員に負担をかけないことも伝える。
6月27日に開いた3回目のライブには大野校長と、前任校からの“盟友”で会社経営の小畑啓さん(50)、同じく会社経営の廣田伸一さん(49)らが結成したバンド「信州ギターズ」が出演。小畑さんと大野校長がギターをかき鳴らし、スーツ姿の廣田さんが汗だくになってロックナンバーを熱唱した。
「絶対また来てね!」と子どもたちに声をかけられた廣田さんは「楽しかった。こんな機会をもらえて、新しいチャレンジができる」と笑った。ライブには地域の人も自由に来られる。「近くに来たから」「買い物ついでに」と気軽に寄れる学校に向けて、その一歩になればと願う。
甕さんは「子どもたちが、ライブに出ていたおっちゃんの所に行ってみるかって思ってくれたら」。大野校長は協力者に感謝し、「ライブは、みんなの優しさや人を思う気持ちが集まっている空間だと感じる。苦々しい顔をしている人がいないから、多分間違っていないのかなと思う」。
次回はきょう13日の予定。申し込みがあった2年生のクラスが出演する。学校は地域の人に、落語やマジック、大道芸、読み聞かせなど、さまざまなジャンルの出演を呼びかけている。同校TEL0263・52・0147