美術家と米菓職人コラボの「おかき」

「民藝菓子 葉田菓」 大江優さん 松本市

松本市の大江優さん(38、里山辺)は、季節の葉物を使ったおかき「民藝菓子 葉田菓(はたか)」の販売を始めた。
大江さんが地元農家から分けてもらったヨモギやニンジンの葉などを、もち米にまぜ込んでおかきにする─。製造は、同市波田で約70年間、米菓専門に手作業で作り続ける塩澤製菓が担当する。昨年春、「ヨモギ入りのおかきを作ってほしい」との大江さんの要望を、2代目塩澤猛さん(81)は一度断った。だが、あまりの熱意から引き受けた。
7年前まで現代美術家として、モーター仕掛けのミクストメディア(複合素材造形)の作品を発表していた大江さん。機械部分は、町工場の職人に頼み込んで作ってもらった。「おかきも、作品を一緒に作っている感じです」

アート制作からおかき作りの道

大江優さんは横浜市出身。都内の大学で美学美術史学を学んだ後、何か作りたいとロンドンの美大へ留学した。帰国後も働きながら、アート作品を制作していた。行き詰まりを感じていた頃、出産し活動を休止した。横浜から、友人が暮らす松本へ遊びに行くうち、松本のきれいな水と山が気に入り、4年前に家族3人で移住した。
何か作りたいという衝動に駆られた時、アート作品同様、今ここで作るべきものは何かと考える。「移住してから毎日、豊かな自然と野菜に感動している。おいしいお米もあるし、松本は乾燥しているから、おかき作りに向いていると思った」と大江さん。“健康オタク”を自称し、健康になるほどのおかきを作りたいと、身近にある栄養豊富なヨモギを入れることを思い付いた。
自宅の台所で作ってみたもののうまくできず、工房を探すことに。市販されているあらゆる米菓の表示ラベルを調べ、県内製造がほとんどなくがくぜんとする中、ようやく見つけたのが塩澤製菓だった。

アイデアを形に塩澤製菓が協力

約30年前は松本に米菓工房が4、5軒あったが、生地から作っているのは、今や塩澤製菓だけだという。2代目塩澤猛さんとはる子さん(79)夫妻に加え、5年前から息子の3代目章さん(45)と明日香さん夫妻の4人で、餅つき以外は手作業で作っている。食品添加物は使いたくないという意識も大江さんと合った。
「おかきに葉物を入れようと思ったことはなかった」と猛さん。ついたもち米をのして乾燥させるのに、天候を見ながら1週間から10日もかかる。乾かすのが一番難しく、長年の勘が必要。何度も試作を繰り返し、約1年かけてヨモギのおかきを商品化した。
「新しいことをやるのは面白い。こっちも勉強させてもらっている。次はどんなアイデアが出てくるかドキドキだ」と猛さんは笑う。新しい提案にも快く対応してくれる塩澤さんたちの柔軟さに、大江さんは感謝する。
っぱとんぼのお子」から「葉田菓」にした。塩澤さんたちがものづくりする姿は「アーティストで、民芸そのもの」だと「民藝菓子」と付けた。
以前制作したアート作品は、見る人の心を動かした実感はなかった。一方、葉田菓のおかきは、発想段階から興味を示す人が多くて新鮮だった。「純粋に人が喜んでくれるものを作っていきたい」

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