
笑い絶えない第3の居場所に
経済格差、コロナ禍や物価高騰が追い打ちをかける貧困、発達障がいでコミュニケーションが苦手など、生きづらさを抱える子どもたち。彼らの力になりたいと「子ども食堂」を始めた親子がいる。
松本市新村の小林葉月(はつき)さん(37)、その両親の大久保俊介さん(67)、典子さん(64)。3月から地元の公民館で月2~3回、子ども食堂「笑和(しょうわ)はうす」を開いている。
小林さんは保育士として10年余り働き、親の忙しさで朝ご飯を食べない子ども、愛情に飢えている子どもを多く見てきた。大久保さん夫妻も元教員で、子どもたちを巡る現状を危惧。食事提供だけでなく、多くの体験ができる「第3の居場所」を模索する。
家族がタッグを組んで取り組む子ども食堂の姿は。
季節感取り入れ調理や工作体験
今月8日、松本市の新村公民館で開かれた「笑和はうす」。壁には誰もが分かるよう、「きょうのよてい」と書かれたスケジュール表が。ちょうど時季の、七夕まんじゅう作りの真っ最中だった。
小麦粉をこね、生地を丸く延ばし、餡(あん)を包んでいく。主催の小林葉月さんと大久保俊介さん、典子さん夫妻をはじめ、ボランティアスタッフが子どもたちの机を回り、丁寧に教える。「まあるく広げてね」「くっついちゃった」。慣れない手つきの子どもたちと、自然と会話も広がる。
続いては七夕飾り作り。色紙を切って吹き流しを作ったり、短冊に願い事を書いたりしてササにくくり付けた。5回以上参加しているという手塚健君(9、新村)は「毎回いろんな物を作れるのが楽しい」。
11時を過ぎ、お待ちかねの食事の時間。小さい子どもから順番に並んで配膳する。メニューはタコライス、そうめんチャンプルー、チヂミ、フルーツヨーグルトと、色とりどりの4品。小林さんの同級生や地域の農家から寄付された野菜をふんだんに使った。子どもたちももりもり食べ、お代わりをする子も。ごちそうさまの後、帰りの会が行われた。
ここで大事にしているのは、季節感も取り入れた調理体験と工作などの手先を使った遊び。「さまざまな生活体験で、自己肯定感を上げてほしい」との思いからだ。子どもだけの参加者も多く、プログラムに沿って進められる様子は、学童保育のようでもある。
中2、小5、年長の子どもを連れて参加した藤田篤さん(42、波田)は「親が教えられないことをやってくれて、ありがたい。毎回違った体験ができるのも刺激になる」。9家庭21人が、たくさんの野菜や自分で作って蒸したまんじゅうなどのお土産を手に、帰途に就いた。
高齢者の利用など活動拡大に意欲
3歳の娘を育てながら、現在もパートで保育士として働く小林さん。朝食を食べてこない子どもや長時間保育の需要の多さに心を痛めたことが、子ども食堂設立につながった。「大人が忙し過ぎて子どもに構ってあげられない現代。一人でも周りに支えてくれる大人がいれば」
その決意を聞いた父親の大久保さん。「最初はびっくりした」と笑うが、特別支援学校教員などの経験から、さまざまな子が集まる居場所の運営に賛同。毎回多彩なプログラムを練り、温かく子どもたちを見守る。
さらに調理師の小林さんの叔父、管理栄養士の友人が調理部門をサポート。市の「子どもの居場所づくり推進事業」の交付金を受け、現在、参加費は一切無料としている。
「笑和はうす」の名には、核家族化が進む現代に、昭和の家族のような笑いの絶えない場を、との願いを込めた。小林さんは「今後、未就園児サークルの運営や、地域のお年寄りも利用できる活動に、拡大していきたい」と意欲的だ。
次回は22日が「夏祭り」、29日は「七夕人形作り」を予定。午前9時~正午。ボランティアや食材の寄付も募集中。大久保さん電話0263・47・3886