【キソガワサツキ後編】赤沢渓流光彩 岩壁にしがみつき花開く

梅雨時の赤沢渓谷(上松町)の渓流と岩のステージで、キソガワサツキ(=木曽川サツキ)が演じる癒やしと感動のドラマ。朱赤色の花が風景に命を吹き込み、鮮やかに舞う。厳しい生息環境の下でけなげに咲く花に、前編「激流水中花」(22日付掲載)に続きカメラで寄り添った。

【渓流に映える赤いポイントカラー】
「森林浴発祥の地」赤沢自然休養林(同町)へと続く赤沢渓谷。巨岩を縫って流れる渓流に、幾つもの淵(渕)がアクセントを付ける。流れが緩やかな平瀬、急流の早瀬が、美しい景観を際立たせる。撮影はキソガワサツキの開花状況を見ながら、下流から上流へ枡淵(ますぶち)、麝香沢(じゃこうざわ)、姫淵、巻淵、袖淵、丸淵と、その周辺で行った。
6月29日午前9時45分、麝香沢(淵)の穏やかな瀬音が心地よい水際に降り立った。岩角や岩陰に点在する赤い花。今夏の花の付き具合は例年並みか。この場所で確認するのは、長年の撮影経験で上流域の花の状況が分かるからだ。
午後0時50分、姫淵のさらに上流にある、お気に入りの撮影箇所に到着。立体感を際立てるレンブラント・ライティング(斜光線)になるのを待つ。午後2時、木陰の隙間から差し込む斜光線のスポット光を浴び、主役の赤い花がにわかに輝く。鮮やかな“花の精の舞”を演じて見せた。
7月9日午前8時15分。「激流水中花」の撮影で訪れた際の一こま。襲いかかる激流を前に、水没を免れて岩壁にしがみついて咲く小さな株。自然の摂理であれ、キソガワサツキの強さを見せつけるような、驚きの光景だった。
同11日午後4時25分、赤沢渓谷の中でも豪快な迫力がある袖淵を訪れた。他に誰もいない小雨の淵で、川面に靄(もや)が出るのを待った。空は雨雲に覆われ、次第に薄暗さが増していく…。強くなる雨足が、心細さに拍車をかける。
気のせいか?かすかな波動のようなものを感じながら、雨に打たれる赤い花に目をやると、どの花もみんな笑っている。午後5時15分、念願の靄が現れ、撮影に成功した。

【キソガワサツキの赤い花のパワー】
色にはそれぞれの意味と力がある。色彩心理学では色が人に与える影響を、心理や生理、感情などに分類し、細かく分析している。血や炎などを連想させる「赤」は、警戒心や注意力を喚起し、感情的な興奮をもたらす。色の中で最も波長が長く、交感神経に刺激を与え、体温や血圧、脈拍数を上げる心理的な効果があるとされる。
撮影中に元気をもらったキソガワサツキの赤い花のパワーを、画角360度のレンズで撮影し編集してみた。読者の皆さんにも、元気が届けば幸いである。

(丸山祥司)