個人撮影の一場面が縁「山崎貴の世界」展で「まつもと日和」上映

何げない日常が未来の宝物に

「時代を超え、本来、残るはずのない映像が残された。内容は個人の思い出なのに、不思議な迫力がある」
松本市出身の映画監督・山崎貴さん(59、東京都)が1本の映画を見終わった直後に述べた感想。鑑賞後の満足感が伝わってきた。
映画は松本市内の個人宅に眠っていた昭和30~50年代の8ミリフィルムを発掘、編集した、映像作家・三好大輔さん(51、同市清水)の監督作品「まつもと日和」。三好さんはこの手法の映画を「地域映画」と名付け、15年以上前からライフワークにしている。
「まつもと日和」が8月1日から、作中のある一場面が縁となり、松本市美術館で開かれている「映画監督山崎貴の世界」展の関連企画として上映される。その一場面とは。

古い映像に残る山崎さん初作品

1958(昭和33)年の東京の下町を舞台に、そこに暮らす人たちの交流を描いた映画「ALWAYS三丁目の夕日」の監督として知られる山崎貴さん。
12日に三好大輔さんの自宅で(ALWAYS三丁目の夕日の設定年代がダブる)「まつもと日和」を鑑賞した感想としてさらに、「何でもない、意図されていない、残そうと思っていない、劇的でないもののすごさがある」と評価。その上で「見られるはずのないものを発掘し、喜びや懐かしさを生み、宝物にしてしまうのがこの活動のすごさ」と称賛した。
「まつもと日和」には、路面電車が走る松本駅前や松本城の遊園地、六九商店街のアーケードなど、失われてしまった風景などのほか、山崎さんが清水中学3年時に仲間と製作した“初監督”作品「GLORY(グローリー)」の一場面が映っており、その縁もあり、自身の企画展で、この映画が上映される。
今から40年以上前に自分が製作した懐かしい映像について山崎さんは、「子どもの時に作ったもので、『こっぱずかしい』。今だったらあれこれと手を加えたいところだらけ」と、照れ笑いを浮かべた。

フィルム収集し「地域映画」製作

20年近く前、ミュージックビデオやコマーシャルなどの制作を手がけていた三好さんは、友達から結婚式の生い立ちビデオの制作を依頼された。
素材の中に数本の8ミリフィルムがあり、そこには新婦の父親が撮影した「娘のその瞬間を捉えたい」という愛情があふれまくった映像が残されていた。
その映像の力に心を動かされた三好さん。2009年に約1年かけ、東京都墨田区のフィルムを集めて映画を作って以来、「地域映画」と名付け、各地の映画を製作した。
11年、東日本大震災をきっかけに安曇野市へ移住し、16年に「よみがえる安曇野」を製作。同市のふるさと納税の返礼品にもなった。
今回の「まつもと日和」は、松本市を中心とした市民や大学生などで22年に結成した「まつもとフィルムコモンズ」が、フィルムの収集・発掘、修復・調査・デジタル化などの作業を行った。23人の市民から合計345本のフィルムが集まり、183本をデジタル化したという。
三好さんは「この映画が、人と人が語り合う場を生み出し、未来を考えるきっかけになれば」と期待する。
上映会はまつもと市民芸術館小ホール。73分。8月1、2、13日、9月19日、10月25日の午前10時~、午後1、4、7時~。大人千円、学生・子ども500円(先着順。ライブ付き上映会の場合は料金が異なる)。予告編はYoutubeへ。問い合わせはまつもとフィルムコモンズ事務局TEL090・3535・6519