安曇野で空き別荘を活用 宿泊施設に改修する辻遥一さん

全国的に増えている空き家。別荘も例外ではない。草木が茂ったり、建物が老朽化したりと、景観や環境の悪化といった問題を招くこともある。そんな空き別荘で新しい挑戦を始めた人がいる。辻遥一さん(33、安曇野市穂高有明)だ。
築45年の建物をリノベーションして7月末、貸別荘「little villa 柊日(しゅうじつ)」をオープン。温泉、美しい自然、きれいな空気など、安曇野の資源を生かし、魅力をPRし、地域を元気にしたいという。
ホテル、旅館と比べると、よりプライベートな空間が楽しめるのが別荘の特長だ。素泊まりプランの他、予約すれば食事も提供する。観光客だけでなく、泊まりの女子会や、子連れでリフレッシュといった利用法も見込む。

新たな魅力加え可能性広げる

安曇野市穂高有明の小岩岳エリアにある別荘地の一角。敷地面積は300平方メートル、延べ床面積は50平方メートルほど、温泉付きの平屋が「little villa 柊日」だ。築45年の建物を約1千万円かけてリノベーションした。リビングは元の形を残しながら、床を張り替え、壁を塗り、レコードやおもちゃなどを置いた。風呂、トイレ、洗面所の水回りは大幅に改修。業務用のキッチンを入れた。
オーナーの辻遥一さんは松本深志高校を卒業後、慶応大に進学、環境経済を学んだ。地元の銀行に就職、関東圏に勤務した際、改めて信州の良さを感じたという。家庭を持ち、子育ての環境を考えた際、信州で働くことがより現実的になった。
その後、茅野市で勤務、貸別荘など観光の仕事に携わる人と知り合い、「信州の魅力を武器に仕事をしていると感じた。就職前から『居心地のいい空間をつくる仕事をしたい』と思っていた。信州の自然は唯一無二。自信を持って仕事ができる」と確信。貸別荘を造ることを決意した。
物件探しからスタート。茅野市では業者が管理する別荘地が多く、貸別荘の運営が難しいため、候補地を自身の出身地の松本、妻の希帆さん(33)の出身地、松川村の近くの安曇野市に絞った。
空き家だけでなく、空き別荘も増えているのか-。別荘は利用期間が限られるため、空き別荘と断定するのは難しいが、「物件を探した際、売りに出ているものが30~40件はあった。相続したが管理費用がかかる、なかなか長野県まで行けない-といった理由から手放す人がいるのではないか」と辻さん。
地元の不動産業者によると空き別荘は多いが、流通しにくいという。「企業や富裕層が持つケースが多く、価格が購入時より下がっている今、相続した場合などを除き、売る選択はあまりないのでは」とみる。
草木が茂る、不法投棄が増える-など周辺環境の悪化、建物の劣化など、空き家同様空き別荘も課題は多い。半面、リノベーションして住宅にしたり、店舗をオープンしたりと、活用されている例もある。
「柊日」は定員4人。ジャズやボサノバなどのレコードとプレーヤーを設置。ミルがありコーヒーを豆から楽しめるよう工夫。子どもが遊べるおもちゃもある。温泉は源泉かけ流し。旅行に来てまで食事を用意するのは大変という人には、食事を付ける…。
「自分が泊まりたい場所を作った」と辻さん。2棟目、3棟目は犬と一緒に泊まれる、サウナ付きなど、新たな魅力を加えたいという。辻さんの挑戦は、空き別荘の可能性を広げる一歩と言えそうだ。

【little villa「柊日」】宿泊は1棟1万9800円~4万4000円。食事は2食付きで、大人6600円、子ども(未就学児まで)2200円。予約などはホームページから。TEL090・4707・6447