村山人形店と珈琲美学アベ アイスクリームで老舗がコラボ

看板メニューに地元アイスを

松本市の中心市街地にある創業77年の老舗人形店3代目が、アイスクリームの製造・販売を始めた。そのアイスクリームを創業67年の老舗喫茶店の3代目が、看板メニューに採用した。思わずニッコリさせられる話だ。
人形店3代目は村山人形店(中央2)の村山謙介さん(45)で、喫茶店3代目は珈(コー)琲(ヒー)美学アベ(深志1)の専務、安部文人さん(32)だ。
以前から商店街活動に積極的に関わってきた村山さん。アイスクリームを、消費者と商店主をさらに結ぶ「ハブのような存在にしたい」と期待。安部さんは、看板メニューのリニューアルという「一大事業」に地元製品を使えたことを喜ぶ。
老舗同士のコラボレーションが、街の活気づくりのヒントになりそうだ。

常連も認めた味と滑らかさ

今では珍しい「純喫茶」の珈琲(コーヒー)美学アベ。カウンターに安部文人さんが立つ。細かく砕いた氷にアイスクリームが載った銅製のコップ。片手にコーヒー、片手にミルクが入った銅製のポットを持ち、細長い注ぎ口から、二つを同時にコップに注ぐ─。
出来上がったのが同店の看板メニュー「モカクリームオーレ」だ。もう一つの看板メニュー「モカパフェ」とともに、安部さんの父で現社長の芳樹さん(66)が46年前に考案した。
味はもちろん、お客の目の前で行う仕上げのパフォーマンスが、テレビのバラエティー番組で取り上げられるなどして人気が再上昇。店の前には行列ができる。
二つの看板メニューに、味でも見た目でも欠かせないのが、コーヒー味の「モカアイスクリーム」だ。現在は村山謙介さんの手作りが「堂々と」載る。
以前は大手食品メーカーに外注していた。「いつかは自分の手で作りたい」と思っていた安部さん。昨秋、村山さんがアイスクリーム製造を始めたことを知り、村山人形店の奥に設けられた工房を見学。「本格派のアイスを作るにはこのブランドしかないという機械が、製造工程ごとに全部そろっていた。村山さんの本気度が分かった」
アベのモカアイスクリーム作りが始まった。半世紀近く親しまれた味を踏襲しつつ進化させるのは、容易ではない。試作に約半年を費やし、ようやく考案者である芳樹さんのOKが出た。が、お客に提供すると「味が変わった」と、敏感な反応が返ってきた。
それでも時間がたつにつれ、これまで以上に上品な味と、滑らかな舌触りが認められ、「いったんそっぽを向いた常連さんが戻ってきてくれた」と安部さん。「最初の反応は変わったことへの違和感。今はおいしさに気付いてくれた」と、リニューアルに満足している。

「素人だから」高果汁に挑戦

人形が本業でありながら、本格派のアイスクリーム作りにこだわった村山さん。「単純にアイス好きだった」ことももちろんあるが、少子化などで人形市場の縮小に危機感を抱いていた。さらに、果物の産地が近く、年間を通じてさまざまな種類が収穫できる松本市なら、規格外で廃棄される果物をアイスの原料にできる。価値を付加して事業化できる|と思ったという。
2022年にアイスクリームの製造許可を得て、試験的に販売を開始。果汁約70%という「素人だからできる、あり得ない高果汁」というイチゴのアイスクリームを作った。小学生の「本物のイチゴを食べているみたい」という感想に、手応えをつかんだ。
村山さんは「日本では9月9日の重陽(ちょうよう)の節句に菊酒を楽しんだ。そうした伝統文化をアイスクリームを通じて人形店が発信できたら」と話す。
アイスクリームを同店で販売する際は店頭に看板を出すほか、インスタグラムで知らせる。1個(80ミリリットル入り)550円。同店TEL0263・32・1770