
地元密着 50年変わらぬ姿勢
地域内での通話と音声放送の機能を備えた「有線放送電話」。お知らせや番組が流れるスピーカー一体型の黒電話を懐かしく思い出す人も多いだろう。
戦後、日本電信電話公社(現NTT)の電話の普及が遅れた農山漁村などで急速に広がった。県内では1955(昭和30)年から開設され、ピーク時は161施設、加入者26万戸と全国一。その後、公社電話の普及などで廃止が相次ぎ、現在は十数施設に減った。
大町市有線放送電話農業協同組合(略称・大町市有線放送)は中信唯一の施設とされ、今年が50周年。令和の今も“どローカル”な情報を声で届ける放送を軸に、住民の日常を支え続ける。
記念展や生放送 若い世代も興味
有線放送電話記念日の8月1日、大町市有線放送「お昼のお知らせ」初の公開生放送が、市立大町図書館で開かれた。20日まで同館で開催中の「創立50周年記念展」の紹介をしながら、有線放送電話の歴史を振り返った。
土(※)屋宏美アナウンサーは「1台の機材で情報収集、娯楽から通話まで。しかも定額で使い放題、今で言う『サブスク』。時代に先駆けていましたね」。ゲストの伊那市有線放送農協の樋代亜希子アナウンサーは「身近な情報を伝えるのも有線放送の魅力」と語った。
生放送を観覧した大町岳陽高校2年の北條絢音さん(16、池田町)は「すごいの一言」。昭和から続く地域の情報伝達手段は、スマホ世代には新鮮に感じられたようだ。
記念展では、昭和30年代からの各時代の受話器や、アナウンサーが取材に用いた録音機器などを、年表や写真と併せて展示。黒電話で実際に通話できる体験コーナーも設けた。
大町北小学校4年の服部こころさん(9)、同2年のゆうさん(7)姉妹は「初めて触った。ダイヤルをどっちに回していいかわからなかった」と戸惑いながらも、回す感触や戻る時間を不思議そうに体感していた。
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大町市有線放送は、大町南部(1959年開設)と大町北部(60年開設)の二つの農事放送農業協同組合が合併して73年に開設。エリアは美麻、八坂地区を除く旧大町市内だ。加入者は90年ごろの約4千戸がピークで、今年3月現在は2144戸。定額制(月額2100円)で加入者内は通話し放題、音楽や講演会などを流すチャンネル放送も聞き放題だ。
2002年からはインターネット接続サービスも行う。職員は5人。少数精鋭で、日々の放送や保守などの業務に当たる。
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現在は放送業務が主。朝昼晩のお知らせや地元のニュース、自主番組などが、正月の2日間を除き毎日スピーカーから流れる。市やJAなどの情報のほか、本日のごみ収集、熊出没や列車運休情報、お盆の時期には加入者の要望で、寺院が檀家(だんか)を回る日程も流し、重宝がられている。
平出志津アナウンサー(48)は「生活に直結する情報を正しく細やかに届けたい」。高齢者世帯が多いので、年末年始でも補聴器を修理できる店の情報を取材して流したり、霜予報を標高別に伝えたりして工夫する。地元密着でかゆい所に手が届く情報を温かな人の声で伝えるのが、有線放送の変わらぬ姿勢だ。
「開設時は労働力を出し合って柱を建てるなど、自分たちで造り上げた施設を大事にする文化と風土がある」。保科正事務長(58)は、大町に有線放送が残る理由をこう語る。
最近、若い世代の移住者が、地元の情報を得たいと加入した。自家発電装置を備え災害時に情報を届ける態勢も整えた。「満足度を高める努力を続けたい」と保科事務長。役割を再認識し、地域に深く根を張り続ける。
【50周年特別企画】
ラジオパーソナリティー武田徹さんと牛越徹大町市長のトークショー「おしえて徹さん」(市南部地域包括支援センター共催)23日午後1時半、サン・アルプス大町。定員先着150人。事前に申し込む。同センターTEL0261・21・1702
【特別放送「音の歴史館」】
50年間の特徴的な企画番組の中から一部を紹介。ユーチューブ=こちら=で公開している。
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