
大町市大町出身のダンサーで振付家の横山彰乃(あやの)さん(35、埼玉県)は、いま日本で最も注目を集めるコンテンポラリーダンサーの一人だ。
近年、国内の大きな賞を幾つも獲得。2021年度からセゾン文化財団(東京)の「セゾン・フェローⅠ」アーティストに選ばれ助成を受けるなど、期待が大きい。
9月16日、松本市あがたの森公園のヒマラヤスギ並木で新作を踊る。横山さんにとって、松本での初公演。即興ではない野外向けの作品を作るのも初めてだ。
「見慣れたあがたの森が、私の体が入ることで、違う景色に見えるかもしれませんよ」とほほ笑んだ。
横山彰乃さんが出演するのは、松本市の劇団「野らぼう」の企画「夜の短い物語vol.4」。横山さんのダンスと、同劇団の役者、前田斜めさんの芝居の2本立て公演だ。
あがたの森を中心に野外劇を続ける前田さんに、横山さんが「野外で踊りたい」と伝えたことから実現。「鳥が飛んでいった跡」を共通テーマに、それぞれ新作を披露する。
横山さんは、作品の中で何かストーリーを提示したり喜怒哀楽を表現したりすることはない。「鳥が飛び立った後の空気感など、目に見えないことを表現したい」という。
3歳から、田村尚子さん(松本市)主宰のモダンダンス教室(大町教室)に通った。大学ではダンスの理論を勉強。2009~19年、東京のコンテンポラリーダンスカンパニーに所属し、ダンサーとして国内外で活躍した。
16年に自ら振り付け、演出を手がけるカンパニー「lal banshees(ラバンシーズ)」を設立。同年のトヨタコレオグラフィーアワードのファイナリスト6人(応募201件)に選出された。
その後も、20年の横浜ダンスコレクション・コンペティションⅠ(38カ国187組)で審査員賞(=グランプリ)、同年に新設された京都コレオグラフィーアワード(応募55組)で奨励賞(=準グランプリ)など、幾つもの賞を受けた。
極めつけは22年、コンテンポラリーダンスの「年間賞」となる日本ダンスフォーラム賞での、大賞に次ぐ「日本ダンスフォーラム賞」の受賞だろう。
首都圏を中心に作品を発表してきたが、「見る人が変われば作品も変わる」と、3年ほど前から、地方でさまざまな人と関わりながらの作品制作を構想している。
昨年秋、県文化振興事業団主催の企画で古里の大町に滞在して制作し、発表。今年は11月から、松本で公募の市民との作品作りが始まる(NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク主催)など、県内での活動を増やす。
ともすれば「難解」とされがちなコンテンポラリーダンス。横山さんは「『何を表現しようとしている?』などと思わずに、景色を眺めるようにゆったりと見て。自己表現で踊っているわけではないので」と助言する。
「ヒマラヤスギと、その中で動き回る私の体をまっさらな気持ちで見ているうちに、目に見えないこと、正解のないこと、心のどこかで気になっていたこと-などに、気づいてもらえたらうれしい」
さあさあ、お立ち会い。いつもと違うあがたの森や、心の奥底に眠っていた自分に出会えるかも。
【横山彰乃さん公演情報】
松本市あがたの森公園で9月16日午後3時、7時。投げ銭制。飲食自由。荒天中止。最新情報は野らぼうのX(旧ツイッター)。