
「バッタさんと一緒に跳んでみるよ。1、2の3、ぴょーん!」
大町市中央保健センターでの1歳6カ月児健診。待ち時間、絵本を広げた場所に親子が集まってくる。エプロン姿の女性が、明るい声で大型絵本をめくる。いろんな生き物がジャンプする姿を描いた「ぴょーん」という絵本。母親はわが子を高く持ち上げる。本がつくる笑顔のひとときだ。
乳幼児健診時に、市と連携してファーストブック贈呈の手伝いや、家庭での読み聞かせを助言するボランティア「健診時読み聞かせスタッフミルフィーユ」。子どもと本との出合いを支え続けて20年余。本年度、文部科学大臣表彰を受けた。
本の入り口サポート20年余
2000年頃、大町市内で読み聞かせ活動が活発化した。全国的に広がり始めた赤ちゃんへ本を贈るブックスタート事業を同市でも進め、充実に向けてサポートしようと、読み聞かせを学ぶ市民らが02年にグループをつくり、活動を始めた。「ミルフィーユ」の誕生だ。
その後、同市、市保健センターや市立大町図書館などと連携して準備を進め、2歳児健診時に絵本の読み聞かせを始めた。4カ月児健診時に絵本を贈る手伝いも続けて、約20年になる。
現在は、代表の松坂惠子さん(65、大町市大町)、髙橋由さん(68、同市常盤)、牛越眞利子さん(74、松川村)、中條柳子さん(68、同市常盤)の4人で活動する。4カ月児健診時に、図書館職員と一緒に選んだ15冊から好きな1冊を贈る手伝い、1歳6カ月児健診時には月齢に合った本を紹介したり、保護者の悩みを聞きながら読み聞かせや本と親しむ方法をアドバイスしたりする。
早い段階での本との出合い、触れ合いを長年支え、子どもの読書意欲を高める活動が評価され、「子供の読書活動優秀実践団体(個人)文部科学大臣表彰」を受けた。本年度の団体、個人受賞は全国で50、県内は同グループのみだった。
選び方や読み方 個別アドバイス
ファーストブックを選んでもらうときは、メンバーが中を見せるなどして絵本の概要を紹介する。赤ちゃんの目線に本を持っていくと、不思議なほどじっと見たり、手足をバタバタさせたり。「4カ月の赤ちゃんでも、こんなに絵本を見てくれることが衝撃でした」と松坂さん。
1歳6カ月児健診時には、図書館の行事案内や子育て支援などのサービス紹介とともに、絵本の選び方、読み方のアドバイスを添えて子どもの名前を記したカードを保護者へ手渡す。メンバーは「お母さんが読んであげたいと思う本からでいいですよ」「きちんと聞いてくれなくても、文を正確に読まなくてもいい。怒って絵本嫌いにせず、ゆったりとした気持ちで楽しんで」などと、個別に声をかける。
アドバイスを聞いた3児の母親(37)は、「4歳の一番上の子はやんちゃで、優しい気持ちになれる本を選んでいたが、私が読んであげたい本でいいと思えた」と、ほっとした表情。メンバーが実体験として伝えられることもある。髙橋さんは「同じ本を何回も持ってきても、親子の絆になる本だから嫌がらずに読んであげてほしい、と伝えています」。
父親や祖父母など、いろんな年齢層が絵本を通じて子どもと触れ合ってほしい─。グループ名の「ミルフィーユ」は、層状になったスイーツに願いを重ねた。活動継続の原動力は、赤ちゃんや子どもからもらう元気だ。本への入り口を案内できる幸せを感じながら、「行政の協力、家族の理解もあってこそ活動できる」と松坂さん。若い仲間の参加も願い、さらなる活動に意欲を見せる。