あづみのコミューンチロル 大切な「居場所」閉店に惜しむ声

カフェ&ギャラリーあづみのコミューンチロル(安曇野市豊科南穂高)が9月25日、閉店する。オープンは2014年。陶芸、布小物、絵画、木工など多くの作家、工芸家の作品展を手がけ、ゆっくりコーヒーを楽しめる地域の人の居場所であり、観光客に地元の魅力を発信する拠点だった。
岡本由紀子代表(53)が、安曇野市や周辺地域に物作りをする人が多く、作品だけでなく生き方にも感銘を受け、「人と人、作品と人をつなげたい」という思いを凝縮した場所だ。これまで企画した作品展は約100回、コンサートは約240回を数える。
カフェの常連も多く、「これからどこに行けばいいのか」「作品を紹介する場所がなくなる」など、閉店を惜しむ声が上がっている。

作品展や音楽会地域の魅力発信

9月11日午前10時半すぎ。あづみのコミューンチロルを訪れると、テーブルは満席。モーニングを楽しむ常連、作品展を見に訪れた人、コーヒーを飲みながらゆっくり本を読む人など、それぞれの時間を楽しんでいる。
安曇野には、全国から移住し、物作りをする人が多い。岡本由紀子さんは、その生き方、作品を通して安曇野の魅力を発信したい、安曇野のファンを増やしたいと2004年、イベント「安曇野スタイル」を始めた一人だ。「観光地を巡るのもいいが、作家の工房や作品巡りも面白いと思った」
作家、工芸家とのつながりができると、イベントだけでなく、拠点があればいいと感じるようになった。長野道安曇野インターチェンジ近くで、食、水、アートと地元の魅力を発信していたレストランが閉店。「自分の思いにぴったり合う」と、その場所でカフェとギャラリーのオープンを決めた。市から指定管理を受ける豊科開発公社から借りてのスタートだった。
経営面など不安を抱えてのスタートだったが、子どもたちに背中を押され、「えい!」と飛び込んだ世界。「どんなに大変でも泣き言は言えない。そんな思いで頑張った」
父、峯﨑さん(80)の支援もあり、これまでに企画した作品展は約100、コンサートは約240回。割引など特典のあるメンバーズカードは約4800枚発行した。訪れた人に作品を紹介し、喜んでもらえることが自分の喜びとなった。作家、作品、顧客と多くの出会いもあった。岡本さんの大切な財産だ。

カフェで過ごすほっとした時間

20年4月には、豊科開発公社の職員としてチロルを任されることになり、現在は同公社が運営する。大久保誠理事長(64)は「赤字で今後の見通しが立たない。公社自体も経営が厳しい」と閉店の理由を説明する。
週1~3回はカフェのモーニングサービス目当てに訪れるという内倉歓奈さん(46、同市穂高柏原)は「ほっとし、自分をリセットできる場所。いい時間を過ごすことができただけにショック」。洋服や布小物作家の山田ゆかりさん(59、松本市笹賀)は「作品を気に入って購入してもらえる人に出会えよかった。残念だが、ご縁は続いていく」。やきもの屋を名乗る藪(やぶ)タケシさん(57、三重県)は「作品展の他、常設展など、長い付き合いだけに、切ない。安曇野=チロルのイメージ」など惜しむ声は多い。
岡本さんは「いろいろな人に育ててもらい、いい時間を過ごせた。今は心が落ち着き、卒業という感覚」と話している。
現在は、白洲千代子さん(55、東京都)の「アクセサリー展宝さがし」を開催中。ネックレスやイヤリングなど約140点が並ぶ。午前10時~午後5時。火曜定休。TEL0263・72・3322