【醸し人】#6 湯川酒造店 杜氏・湯川慎一さん

立地逆手に世界的な評価

湯川酒造店(木祖村薮原)の創業は江戸初期の1650(慶安3)年、県内で2番目に古い酒蔵になる。2012年、杜氏(とうじ)として入った湯川(ゆがわ)慎一さん(56)は「ここにあるものをブラッシュアップしていこう」と臨んだ。それから10年、伝統的な製法で造り上げた銘柄が今年、世界的な品評会で最優秀賞を受けた。
酒蔵としては不利の多い立地だという。標高936メートルでは沸点が96度ほどにとどまり、低地のように米が蒸せない。ミネラルの少ない軟水や寒さは、酵母の働きを抑える。
何とかしようと、空気中から乳酸菌を取り込んで酵母を育てる「生もと造り」に取り組んだ。近代の速醸より手間がかかる伝統製法に、木曽・薮原の環境を生かそうと理論の手を加えた。「酵母が屈強になった。(アルコール発酵という)仕事を最後まで全うしてくれる」と湯川さん。
「立地のデメリットは全てメリットになった」という。その粋が今年の「十六代九郎右衛門純米吟醸美山錦」だ。インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)で「チャンピオン・サケ」に輝いた。「やってきたことが間違いではないと証明してもらった」
箕輪町出身。大学進学で上京。30歳で伊那谷に戻り、酒蔵・仙醸(伊那市)に入った。最初は配送担当。営業職から造り手になり、間もなく杜氏に。湯川酒造店の16代目となる尚子社長と知り合い、入籍とともに移籍した。
入社前の同社の酒の印象は「甘くて味が多い」だった。生もとで造る今は「甘さがパッと広がり、味わいがシャンとしてて、キレがある」。伝統の洗練を「引き続き積み上げていきたい」と語る。

【沿革】
ゆかわしゅぞうてん 店は旧中山道沿い。当主の名字は「ゆがわ」だが、「傷まない酒を」との思いから、店名は濁りのない「ゆかわ」としたという。主力銘柄「木曽路」はここ5年で3度、全国新酒鑑評会で金賞に選ばれた。

【湯川さんおすすめこの1本】
木曽路特別純米大寒仕込ひやおろし(720ミリリットル1584円)

【相性のいい料理】
鶏もも肉のコンフィ。ほっこりした料理と合わせやすい

【連絡先】
湯川酒造店TEL 0264・36・2030