【記者兼農家のUターンto農】#120 汚泥肥料実験の稲刈り

好結果に喜ぶ農家の生徒

3アール(300平方メートル)といえば耕作面積としてはごくわずかだ。そんな小さな田んぼに、県や安曇野市などの関係者、それに多くの報道陣が集まった。
場所は南安曇農業高校の農場。同校の生物工学科微生物活用コースの2年生11人が、稲刈りをする日だった。
注目された理由は肥料にある。連載の5月20日の回で、この田に下水汚泥がまかれたことを紹介した。窒素やリンを多く含む汚泥だが、実際に肥料として使えるのか、本物の田で調べる栽培実験だ。
3アールを3等分し、下水処理場「アクアピア安曇野」(同市)の汚泥をまく区画、一般的な化成肥料の区画、何も入れない区画をつくって田植えした。
それから4カ月、9月21日の稲刈りとなった。すぐに脱穀。正確な収量や品質は乾燥と精米をしてから調べるが、大まかな出来を重さで比べた。もみ入りの袋を量ると、汚泥区69・3キロ、化成区63キロ、無施肥区40・2キロ。汚泥に肥料成分は十分ありそうだという結果だ。
「実用化の未来が見えた」。生徒の中でとりわけ中野幸太さん(16)が喜んだ。実家は大規模農家で、化成肥料の値上がりは悩みの種だ。汚泥が安くて安定した地元産肥料になれば、と実験に積極的に関わってきた。
田植え後の経過観察でも稲の伸び具合や茎の増え方(分けつ数)が、汚泥は化成肥料に引けを取らなかった。「生育途中の効き具合も同等かそれ以上だった。うれしい」
当事者でなくとも興味を引かれる実験だったようだ。非農家の髙木菜月さん(17)は家でも話題にした。「肥料の有効活用の上で大切だなと。家族からは『汚泥』という名前がよくない、変えた方がいいと言われた」。確かに、消費者は余計に気になるだろう。
食べて出した物が食べる物のもとになるというのだから、誰しも気になる。小さな田んぼの実験が、社会の注目を集めるわけだ。
同校と県が協力する実験は、今後数年かけて、肥料成分だけでなく、米や土壌の安全性も確かめる。