32年夫婦で二人三脚―「そば処まつした」10月末で閉店

松本市中央2の「手打ちそば処(どころ)まつした」が今月31日で閉店する。店主の松下武光さん(82)、妻の知恵子さん(79)が二人三脚で32年間切り盛りしてきた。知らせを受けた武光さんの女鳥羽中学校時代の同窓生は9月20日、急きょ店に集まり、労をねぎらった。
松下さんはそば好きが高じて1992(平成4)年、脱サラして四賀村(現・松本市)のそば店で修行し、独立した。提供するのは、少し黒めで香りが高く、口の中に広がるほのかな甘みが特長といわれる信州そば。メニューには同市奈川地区の郷土料理「とうじそば」、冬季はほうとうなどもあり好評だ。
閉店のきっかけは今年2月、雪が降った後の駐車場で転倒し大腿(だいたい)骨を折ったこと。新型コロナが収まり始めたため、回復を待たずに店を再開したが痛みが残った。気力をそがれたところに店の賃貸契約更新時期を迎えることになり、閉じることを決めた。
数々の思い出が残るが、本紙の前身の一つ「松本平タウン情報」に寄せられた投稿がきっかけで、自ら行動したことも印象深い出来事という。「信州そばを楽しみに松本を訪れたが味にがっかり」という記事を見て、居ても立ってもいられず「ぜひ食べてみて」と手打ちそばを手紙と共に郵送。投稿者から「本物の味に感動した」という返信が編集部に届き、再び記事になった。
従業員として32年間働いた中埜節美(なかのせつみ)さん(69、同市神田)は、「千葉や静岡から修学旅行で来た生徒が、大人になって再び訪れてくれた時はみんなで大歓迎した。懐かしいね」。
松下さんは「始めた頃はそばが短く切れて客に叱られ、つらい思いもした。仕事に追われていたが、帰郷した旧友や思いがけない人と会える機会が多くて楽しかった」。知恵子さんは「お客さんに大切にされて、あっと言う間の32年でした。感謝の気持ちでいっぱいです」と話した。