
昔よく行ったあの店、でも今はもうない-。誰にもそんな思い出の店があるのではないか。松本市に縁のあるデザイナーや店主など8人が、それぞれの体験や思いをつづったエッセー集「Neverland Diner(ネバーランドダイナー) 二度と行けない松本のあの店で」が発売された。他人の思い出なのに、不思議と懐かしさを感じる一冊だ。
各界の著名人100人が記憶に残る店についてつづった書籍「Neverland Diner 二度と行けないあの店で」(都築響一編、ケンエレブックス)のスピンオフ(派生)企画として、大阪、名古屋、京都、松山など、各地で地元書店が編集し発行。上田市の書店が上田編として独自に作ったZINE(ジン)(自主出版物)を読んだ松本市の飯田屋飴店店主・伊藤雅之さん(50)が、ぜひ松本の話を読みたいと編集に手を挙げた。「大人のクラブ活動のような遊び心」で、引き受けてくれそうな人に執筆を依頼した。
筆者の一人、カレーとおやきの店「something tender(サムシングテンダー)」(大手4)を営む本橋卓さん(47)は、東京出身で12年前に移住。「諸先輩方を差し置いて書けない」と初めはためらったが、よく行った美ケ原温泉にあったそば店のことを書いた。「読み手のフラストレーションがたまらないよう、おいしかった味ではなく、店の情景が思い浮かぶようなことを書こうと思った」
本には他に、両親が営んだ焼き肉店、文豪も愛した中華料理店、縄手通りにあった映画館-などが登場する。
伊藤さんは、本を編集した架空の書店として「SOBA SOBA BOOKS(ソバソバブックス)」を名乗った。本を「そば」を食べるように読んでほしい、そして「そば」に置いてほしいと思いを込めた。「読み応えがあるいいものができた。松本土産の一つになれば」と話す。
1冊600円。書店「本・中川」(元町1、TEL0263・33・8501、月・火曜休み)で販売している。