
松本に一流の“庶民の笑い”を
古典落語の人間国宝はこれまで、先代柳家小さん、桂米朝、柳家小三治。東京でも上方(かみがた)でもない地方に、3人全員上がった高座がある。松本落語会だ。
1973(昭和48)年、若手の会として産声を上げ、名人も至芸を披露するようになった。月1回のペースで続き、今月、50周年を迎えた。定期的に開かれる地方の落語会としては、全国でも類のない長寿だという。
「本当のプロの話を味わってほしいと思って続けてきた」と世話人の一人、筒井敏男さん(79)。今年4人目の人間国宝に決まった五街道雲助も、しっかり呼んでいる。
21日、記念落語会が開かれる。現代の大看板、柳家権太楼と、第1回に出た三笑亭夢太朗が口演。トークショーで50年の歴史も振り返る。
世は第1次石油危機に見舞われていた。「暗い世相に何か楽しいことをしよう」。落語好きが集まって、1973年10月、松本落語会は始まった。
中心になったのは、大島啓愛(よしのり)さん(2014年に78歳で死去)。けんかっ早くて人情に厚い。「まるで落語に出てくる職人のようだった」と、筒井敏男さんは振り返る。
松本に一流の“庶民の笑い”を持ってこようと、大島さんは私財も投じて、名人たちの懐に飛び込んだ。
大島さんが亡くなった後は、世話人会(百瀬澄之会長)で力を合わせて続けてきた。若手を挟み、真打ち2人が古典ネタをたっぷり聞かせるのが定番。コロナ禍で中止もあったが、50年で560回開き、千人を超える落語家を招いた。
「気楽に来て、笑って泣いて。それが一番だと思う」と筒井さん。気取らず、それでいて上質な高座を続けるつもりだ。
量と質を誇ってきた会だが、最近は高齢化が懸念材料。今の世話人は66歳から88歳の6人で、会場設営も一仕事という。客層も超ベテランの域に。「若い人にも聞きに来てもらい、そして手伝ってほしい」と筒井さんは呼びかける。
50周年記念となる第561回は、21日午後1時から松本市中央公民館(Mウイング)で。当日4500円。同会事務局(食事処いばらん亭)TEL0263・32・3786
※落語会の写真は松本落語会提供