松本の川上ひとみさん 「違ってもいい」を絵本で読み聞かせ

子どもに正解を押しつけない

「まちがってるこいる?」。絵本の題字の下に、みんなが赤い服を着た中で1人だけ青い服の女の子。ページをめくると、全員座る中に1人だけ立って万歳している子が。
少数派は受け入れられづらく、違和感や疎外感を抱きやすい子どもの世界。だからこそ「だれもまちがってないよ」「まちがってるんじゃなくて、それぞれちがうだけ」と呼びかける─。
絵本を作ったのは松本市の主婦、川上ひとみさん(36)。SNSに上げた読み聞かせ動画が80万回再生と、多くの共感を得た。
幼い3人の子育て中に広まったコロナ感染。絵本の読み聞かせが自身の救いとなり、絵本の制作が、感じたことを他者と共有する手段となった。伝えたいメッセージは何だろうか。

育児への重圧 絵本が助けに

松本市の主婦、川上ひとみさんにとって、絵本は人生に欠かせないものだ。この1年で、読むものから自身の思いを伝えるものにも変化を遂げた。幼児にも伝わるよう、シンプルな言葉を選び、タブレットで絵を描いて、5冊を順次制作(英語翻訳版1冊を含む)。「かわかみかか」の著者名で、ネットサイトのKindle出版で販売している。
岡谷市出身。短大卒業後、保育士の道へ。初任園が読み聞かせを大切にする園だったことから、毎日読み聞かせをし、絵本の持つ力や子どもの想像力の豊かさに驚かされた。
結婚して双子が生まれ、「寝る時間もないくらい」のバタバタの日々の中でも、子どもが2カ月の時から読み聞かせを始めた。
転機は新型コロナの感染拡大。2020年3月、下の子が生まれてすぐ夫が単身赴任になり、頼みの綱の保育園は休園に。人との接触も制限され、赤ちゃんを含む3人の幼児を一人で家で見る生活を強いられた。上の子の赤ちゃん返りもひどかった。「笑えなくなり、プレッシャーで眠れない。育児ノイローゼ気味だった」
助けてくれたのは絵本だった。寝る前に、子どもが選んだ絵本を1人1冊ずつ必ず読むことにした。3人それぞれと一対一の時間を確保すると子どもの状態が落ち着き、しっかり向き合えることが自分の充足感や癒やしにつながった。
コロナ禍はマスク社会。川上さんは保育士の視点から、「相手の表情が分からず息苦しくなる」など、子どものマスク常用のリスクを危惧していた。この疑問から生まれたのが「こうえんにれっつごー」「ずっとこうしていると」の2冊だ。
「まちがってるこいる?」は、小学校にマスク不着用の自由を求めたが、難しさを感じた経緯から着想した。自身の読み聞かせをインスタグラムのリール動画にアップすると、80万回再生、2万の「いいね」(良い評価)が付くなど、驚くほどの反響を呼んだ。

メッセージに全国から反響

絵本も全国で500冊以上売れ、購入者が図書館に寄贈するなど、予想以上の広がりも。多様性に関心を持つ人からも反響があった。「普段の生活で意見を言うことが難しい、というテーマで、同じ気持ちの人とつながれてうれしかった。子どもにも選択の権利があることを伝えたかった」と率直に喜ぶ。
最新作は「あなたがどんなにすごいかしってる?」だ。不登校や10代の自殺の増加を憂えて、「生きているだけで尊いんだよ」との力強いメッセージを込めた。
今後は形態を変え、出版社から一般流通できるようになれば|というのが夢だ。「大人が『みんな違っていいよね』という目を持ち、正解を押しつけなければ、子どもたちも生きやすくなる」
絵本はAmazonサイトからタイトルで検索、購入できる。キンドル版の電子書籍は200円、紙の本はA4判、1221円から。