いわさきちひろの孫松本さんに聞く 安曇野への思い

生涯を通じて純真な子どもの姿を描き、平和の尊さを訴えた絵本画家いわさきちひろ(1918~74年)。「心の故郷」と呼んだ安曇野では、安曇野ちひろ美術館と周囲に広がる安曇野ちひろ公園(ともに松川村)が、全国から多くのファンを集める。
ちひろの孫で、絵本作家の道を歩む松本春野さんもその一人。東京で画業に励みながら、毎年安曇野で祖母の絵の世界に浸り、地元の人と交流しているという。
「いつか安曇野に住めたら」と語る松本さん。そこまで好きな安曇野やちひろへの思いを、思い出の詰まったちひろ美術館・東京(練馬区)で聞いた。

松本春野さんは1984年東京生まれ。父は安曇野ちひろ美術館や県信濃美術館(現県立美術館)の館長などを務めた作家の松本猛さんだ。
練馬区の生家の隣にあったちひろ美術館・東京は、毎日の遊び場だった。大学で絵を学び、09年絵本作家デビュー。希望に満ちた子どもの姿をのびやかに描く画風で、年々評価を高めている。
ちひろは戦時中、松本市に疎開。松川村には戦後、両親が移住している。春野さんが生まれる前に他界したので、直接会ったことはない。「でも、ちひろの絵を見て育ったので、彼女の愛情に包まれて成長したという感覚です」。一人娘を育てる母親でもある。「わが子同様、絵の中の子どもにも精いっぱい愛情を注ぎ、好きなだけ遊ばせています」
毎年の安曇野訪問を楽しみにする。「子どもの頃から家族で親しんだ特別な場所。今は疲れやストレスを感じると、あの清涼な空気に包まれたくなります。北アルプスの山も大好きで、名山に囲まれた暮らしに憧れます」と話す。

地元の人との交流も楽しみ

安曇野ちひろ美術館スタッフら地元の人との交流も、喜びの一つだ。「皆さん働き者。いつも手作りのおいしい物で歓迎してくれます。この前頂いた搾りたてのヤギの乳は温かく、塩味もあってスープみたいでした」
娘も同館が大のお気に入り。「他の子たちと外で昆虫を追い、飽きると館で絵本を読んでいます」と笑う。
ちひろは黒柳徹子さんのベストセラー「窓ぎわのトットちゃん」(講談社)の挿絵でも有名。松本さんも今年7月出版の絵本「トットちゃんの15つぶのだいず」(同、黒柳徹子原案、柏葉幸子文)の絵を担当した。
「15つぶの|」は、黒柳さんが戦争中体験した食糧難や父親の出征などが描かれている。出版社からの絵の依頼に、松本さんは最初「トットちゃんといえばちひろ。私が描けばそのイメージが壊れる」と迷った。だが、「この話を今の子どもたちに伝え、家庭で平和について話し合ってもらいたい」という気持ちが高まり、引き受けた。
来年はちひろ没後50年。東京、安曇野の両ちひろ美術館では、記念展が計画されている。松本さんは「ちひろの絵は子どもから大人まで全ての人に寄り添ってくれます。だからみんなに愛され、時を経ても色あせない。そんなちひろの世界をぜひ味わってみてください」と語った。

【2024年のちひろ美術館】
ちひろ美術館(東京・安曇野)は、いわさきちひろ没後50年にちなみ、3月から年間を通した展示を計画している。「あそび」「自然」「平和」の三つのテーマを設定。東京と安曇野で3カ月ぐらいずつ、三つの展示をしていく予定だ。詳細は計画中。