松本市波田8区 原村東組「隣組」の小さな文化祭

秋たけなわ。各地で住民文化祭が開かれている。市町村や地区、町会といったある程度大きな単位で催されることが多いが、「隣組」が開く文化祭もある。
松本市波田8区の原村東組(11戸)は10月21、22日、町内公民館で文化祭を開いた。会場には、ほぼ全戸から出品された美術や手工芸作品、農産物など約50点がずらり。住民出演のミニコンサート、お楽しみ抽選会、ワークショップありの充実の2日間で、近所同士の絆を強めた。
地方社会といえども、近所付き合いが希薄になる昨今。ここには逆を行く親密さがある。ほのぼのとした小さな文化祭をのぞいてみた。

「おめでとうございます!」。松本市波田8区の町内公民館の玄関前では、町会長と町内公民館長を来賓に招いてのテープカットが行われた。住民の拍手の中、小さな文化祭はにぎやかに開幕した。
作品の出品条件はゆるく設定。過去の作品でも、離れて暮らす、他界した家族の作品でも可という。住民が手をかけたものであればオーケーで、美術大学卒業や展覧会に出品している住民の本格的な絵画や版画作品から、植物の寄せ植え、マクラメの手芸品、紙の米袋を加工した手提げ袋、丹精したリンゴまで。30~90代の住民によるバラエティーに富んだ作品が並んだ。
近所の公園のサクラの木を、開花前から葉桜になるまで日々同じ場所から撮影したパラパラ漫画風のユニークな写真作品があったかと思えば、虫眼鏡で鑑賞する極小のわらじは、故人の作品という。
牧田勝明さん(78)は軸装された見事な書道作品に加え、「これもアスパラだ」と題した数枚の写真を出品。曲がったり絡み合ったり、極太に育ったアスパラガスを収穫時に畑で見つけ、「面白い」とスマートフォンで撮影していた。「出す物がなかったから」と笑う。
2日目はミニコンサートが開かれた。文化祭の「言いだしっぺ」で隣組長の古畑睦弥さん(64)は、ギターの弾き語りを披露。曲間のトーク中、客席からは「いつになったら歌うだい」と突っ込みが入るなど、和やかな雰囲気だ。「夢の中へ」を歌うと、マラカスやタンバリンも加わり、会場が一体となって盛り上がった。リコーダーやユーフォニアムを演奏した住民もいた。

原村東組は、かねて住民同士が親密で、元日の新年会、焼き肉会、休耕田で栽培から手がける「そば会」など、数々の行事を開いて交流している。多彩な趣味や特技を持つ住民が多いため、「隣組の発表の場を設けよう」と有志が提案。全戸に呼びかけ、2019年に初めて文化祭を開いた。コロナ禍を挟んで、今回が2回目だ。
「自分たちが楽しいことが大切で、自己満足でいい。でも、やるからにはちゃんとやる。すると、みんなが本気になる」と古畑さん。チラシも作品のキャプションもきちんと作り、本格的にテープカットもする。
住民の小池明美さん(62)はピアノの伴奏で参加した。「楽しい協力だから心を開いて話ができ、団結が強まる。作品や演奏を通じて皆さんの意外な一面が見え、話題も広がる」。編み物作品を出した塩原クニ子さん(80)は「みんなで寄り合えることが何しろ楽しい。安心して暮らせる」と笑顔だった。
「遠くの親戚より、近くの隣人。何かあったときには助け合える」と語る古畑さん。「この後の慰労会が楽しみでね」と笑いながら、「また来年もやりますからね」。ご近所さんに元気に呼びかけた。