ピアニスト・伊佐津さん第2の音楽人生 「自由と責任」覚悟の一歩

自らを解き放ち観客に感動を

信州の大自然を表現した音楽を「信州ジャズ」という独自ジャンルで提唱する、ピアニストの伊佐津さゆりさん(安曇野市豊科南穂高)。
このジャンル初のCDを発売してから11年たった今年、共に歩んできたプロデューサーから離れ、活動全般を「セルフプロデュース」することにした。
「やりたいことを自由にできる半面、結果も全て自分の責任」と覚悟を持って挑む。「聞いてくれる人が感動しなければ、やっている意味がない」という信念にぶれはない。
10日には安曇野市で気心の知れたミュージシャンとセッションする。信州の新たな風を感じられるか注目だ。

巨匠との演奏に大きな教訓得て

2016年5月25日、ジャズ界の巨匠、故チック・コリアさんのピアノソロコンサートが松本市で開かれた。コリアさんの大ファンだったピアニストの伊佐津さゆりさんも会場にいた。
コンサート中、コリアさんが観客に「一緒に演奏しないか」と呼びかけた。誰よりも早く手を挙げた伊佐津さんが指名され、ステージに上がった。
コリアさんと伊佐津さんの連弾による即興演奏。伊佐津さんは「夢のような時間。緊張したが、音の『やりとり』は楽しむことはできた」と振り返る。
18年、今度は塩尻市でコリアさんのコンサートが開かれた。観客をステージに呼ぶ企画もあり、再び、伊佐津さんが上がった。二人での2回目の即興演奏。「コリアさんは前回のことは覚えていなかったと思うが、この時は『とても素晴らしかった』と褒めてくれた。自分でも1回目より、自由に伸び伸びでき、いい演奏だったと思う」と伊佐津さん。
この2回の出来事は、「音楽家・伊佐津さゆり」にとって、一生忘れられない思い出であり、大きな教訓だ。
コリアさんとの1回目の演奏が、プロデューサーと一緒だった頃の伊佐津さんなら、2回目は今年からの伊佐津さん。「自由に音楽を楽しまなければ、いい音楽にはならない」。これもまた、伊佐津さんの音楽に対する信念だからだ。

感性は十人十色より伝わる音を

「信州ジャズ」のジャンルで初めてCDを出したのが2012年。その後、コロナ禍で活動を自粛する前の2019年までに、合計4枚のCDを発売。2枚目の「Gift(ギフト)」には、民謡「木曽節」や、唱歌「朧月夜(おぼろづきよ)」など、長野県ゆかりの曲をアレンジした作品もある。
「これまでは、信州の美しさを音にすればいいと思っていたが、それだけでは人を感動させることはできない」
第2の音楽人生をスタートさせた今の心境だ。「同じ風景でも見る人によって、感じ方はそれぞれ。できるだけ多くの人の心に寄り添った音楽をつくりたい」と切望している。
そうして再スタートしたコンサートなどで、お客の反応は「上々では」と手応えをつかんでいる伊佐津さん。コロナ禍の自粛期間中などに書きためた新曲も20曲ほどあり、「何とか形に残したい」と意欲を見せる。
「自分が自由に演奏し、観客を感動させる」。音楽家としてさらなる高みを目指して鍵盤と向かい合う。
コンサートの問い合わせなどは、ライブ事務局TEL090・8871・5419

【プロフィル】いさつ・さゆり 曇野市出身。松本深志高から武蔵野音大(東京都)に進学。卒業後、ジャズピアニストとして都内で活動し、結婚を機に帰郷。2012年に「信州ジャズ」を提唱し、ファーストCD「Field」をリリース。以後、県内外で精力的な音楽活動を続けている。