大町「ホテル夢の湯」元マスター中村さん 宿の名物演奏会6千回に 11月21日記念ライブ

午後8時、大町市平の大町温泉郷にある「ホテル夢の湯」ロビー。照明を少し落とした中でギターを抱え、宿泊客を前に弾き語りを始める人がいる。
この宿を1994年に開いた元マスターの中村豊さん(72、池田町池田)。宿泊客の夜の退屈しのぎにと、1人でもリクエストがあれば開いてきた宿の名物「ひまつぶしコンサート」は今月、6千回を達成予定だ。昨年10月で半世紀続けた宿泊業を引退。その後も週末を中心に宿に通い、他の場所も含めて一期一会の出会いを大切に演奏を続けている。
6千回と音楽活動50周年の記念チャリティーライブが11月21日、松川村すずの音ホールで開かれる。

「こんばんは。この時に居合わせた縁だけですが、30分のひまつぶしでございます」。昨秋まで「ホテル夢の湯」のマスターだった中村豊さんによる11日夜のひまつぶしコンサートは「遠くへ行きたい」から始まった。喜寿祝いで宿泊した男性からのリクエスト。10人余の宿泊客が集った。
「君といつまでも」「襟裳岬」「秋桜」「昴」「黒の舟唄」「カントリーロード」…。往年の名曲のリクエストを受け、太く艶のある声で12曲を熱唱。一番人気の「なごり雪」は、5996回目となるこの日も歌われた。
名古屋市から観光で訪れた安達律子さん(67)は「知っている曲は内緒で口ずさみました」と楽しそう。娘の美香さん(37)は「コンサートは知らずに泊まったが、観客も一緒に楽しんでいる感じが良く、旅の思い出になりました」と笑顔で客室に戻った。
奈良県出身で料理人の中村さんは1972年、白馬村にロッジを開業。生来の音楽好きで自分の宿で歌うほか、村内の宿主らと「白馬おじさんバンド」を結成し、チャリティー演奏活動を東京や大阪などでも続けてきた。
スキーブームがしぼみかけ、大町温泉郷で温泉宿を開いたのが1994年末。翌年1月の阪神淡路大震災で、以前からバンドが寄付金を送っていた兵庫県肢体不自由児協会(当時)が被災し、宿泊客から寄付を募ろうと開いた「100円コンサート」が、「ひまつぶしコンサート」の出発点だ。
「1人でも1曲でも、リクエストがあればやるぞと心に決めた」と中村さん。右手の爪3枚を負傷しても、観客が1人の夜も、もてなしの心と共に至近距離で歌声を届けた。「日々のルーティンにもなり、6千回はあっという間。聞いてくれたお客さんがいたからこそ」。2018年に到達した5千回から6千回までの間には、休業を強いられたコロナ禍があり、動画投稿サイト「ユーチューブ」で配信した時期もあった。
配信を知った東京の医療関係者の夫婦からリクエストが届いた。ライチャス・ブラザーズが歌う甘く切ない旋律の「アンチェインド・メロディ」だ。コロナ前の恋人時代に夢の湯で聞き、結婚に至った大切な曲という。医療の最前線で闘う二人を思うと、「昨日まで歌えたのに、こみ上げるものがあり歌えなかった」と中村さん。代わりに過去にバンドで歌った映像に激励のメッセージを添えて配信した。

名曲の力届ける

仕事を引退した後は、高齢者施設などに演奏の場を広げる中村さん。お年寄りの表情がみるみる変化するのを間近に見て音楽や名曲の力を感じ、「喜んでもらえる人の所へ出張したい」と、各所での演奏依頼も受け付ける。
21日のライブは白馬おじさんバンド、親交があるシンガー・ソングライター普天間かおりさんが出演。午後1時開演。1500円(当日2千円)、全席自由。

【主催者より21日のライブチケットプレゼント】
抽選で5人に。件名に「6000回ライブ」と明記し、メール(yumenoyu@avis.ne.jp)で応募する。19日必着。