朝日村の土から縄文時代を思う 濱田卓二さん彫刻作品展

地層の個性そのままに

「土」を知り尽くし、土からさまざまな「物」を生み出した縄文時代の人々。彼らと同じ感覚を持ちたいと願う人がいる。
安曇野市穂高有明の彫刻家、濱田卓二さん(39)は今秋、朝日美術館(朝日村)の展示室に、古代の土を使った自身の作品を12個並べた。「土を通じて縄文人とつながることができただろうか」と自問しながら、目線を作品に合わせるため床に座った。個展「土たちの詩話(しわ)」の準備中のことだ。濱田さんの表情は穏やかだった。
縄文時代の遺跡が多い朝日村の古い地層から土を掘り、名古屋工業大の協力を得て成分を分析。同時代の土に近いと確信した後、それを使った作品を仕上げた。別会場には過去の作品14点もあり、26日まで展示している。

素焼きの味わい 模索し土生かす

濱田卓二さんは京都府出身。金沢美術工芸大大学院で彫刻を学んだ。大学や大学院ではさまざまな彫刻の方法を身に付け、粘土を使う彫塑で人体彫刻なども手がけた。だが、そのうちに「粘土で作った原型を石こうなどに置き換えたら、土の味を出しにくくなる」と思うようになった。
そんな時、テラコッタ(素焼き)を勧めてくれる人がいて、作品を焼いてみたところ、その味わいのとりこになったという。安曇野市の碌山美術館に勤務するため移住した後も、自作を模索する姿勢は続いている。
濱田さんの作品の題名には、「〇△▢―Breath(呼吸)」「〇△▢―hito(人)」というように、大半に「〇△▢」の3文字(記号)が付く。「〇は△にも□にもなり得る。三つの形は循環するように変わりながら成り立っている」と考えるためだ。
今年の作品にも、「〇△▢―Breath」は8点あるが、それぞれ大きさも形も違う。中には100キロを超える作品もある。
大きなひび割れができたり、ゆがんだりしたものもある。「かつては、そうしたことに疑問を覚えたが、今は、強い火で焼かれても何とか形をとどめてくれた土に、『これがこの作品の個性なのだ、これでいいのだ』と、感謝さえするようになった」と言う。

3カ所の土比較 状態の違い展示

朝日村での個展は昨春、同館の学芸員たちが濱田さんの作品を見たことで話が進んだ。同村の土を使うアイデアも自然に浮かんだ。昨秋から、縄文時代の地層を探し、村内を流れる鎖川の近くにある「梨の木ローム層」「小坂田ローム層」「波田ローム層」の土を試すことになった。
濱田さんと村、村内の地質に詳しい人が、3カ所の土の成分分析を名古屋工業大に頼んだところ、村内から出土した縄文土器は波田ロームではないかとの結果が出た。
濱田さんはさっそく、波田ロームの土で制作を始めたが、縄文時代と今では地層の状態が違うため、形を保ちにくく、現在では小坂田ロームの土が昔に近く、制作に適することが分かった。
以後、作品の大半はこの土で作ったが、「3カ所の土を比較できるような作品も作りたくなった」と、角材を並べたような作品を1点生み出した。「同じ温度で焼いても、形を保てる層と、そうでない層が明らかに分かる」と濱田さん。題名は「〇△▢―Stratum(地層)」とした。
個展「土たちの詩話」は26日までの午前9時~午後5時。月曜休館。一般400円、高大生200円、小中学生100円。同館TEL0263・99・2359