米と会話し寄り添う
「お米と会話する」。150年以上の歴史がある亀田屋酒造店(松本市島立)の杜氏(とうじ)・伊藤大治(だいじ)さん(48)は、酒造りで大切にしていることをこう表現した。杜氏として今年で7シーズン目。当初は独り善がりだった自分の意識が変わった2~3年前から、醸す酒も変わったという。
同店は、10~4月に酒造りを行う「寒造り」を創業以来続ける。地下62メートルからアルプス山系の伏流水をくみ上げ、県内の契約農家が育てた酒米を使用する。「今年1月の大寒波も一つの味わいになった。この土地の風土と水、お米が大事」
同市出身の伊藤さんは20代の頃、自動車販売の営業をしていた。手に職を付けたいと、テレビで見た杜氏に憧れ、28歳で酒造りの世界に飛び込んだ。県内の酒造会社で働いた後、亀田屋酒造店に入社。2018年に経営者が変わったタイミングで杜氏となった。
当初は酒の不出来を、米が硬いから、機械が古いなど、全て状況のせいにしていた。「不安でいっぱいだったこともある」と振り返る。
しかし、講習会や他の酒蔵で学び、経験を積んでいく中で、「お米に寄り添う技術が身に付いた」。水の量や温度、搾り方などを変え、自分たちが米に合せる。例えば米の蒸し上がりに納得いかなくても、「酒がそうなりたかった」と、思うようになったという。
「材料や環境のせいには絶対にしたくない」と、意識が変化した頃から、数々のコンテストで賞を受け、今年の全国新酒鑑評会では金賞を受賞した。
「私たちが日本酒を造れるのは、日本酒を愛してくれる人がいるから。蔵人たちと最高の品質を提供し続けていきたい」。杜氏の矜(きょう)持(じ)だ。
【沿革】
かめたやしゅぞうてん 1869(明治2)年創業。2018(平成30)年、昭和産業(岐阜市)が酒造事業を引き継ぐ。銘柄「アルプス正宗」「亀の世」に加えリキュールも造る。敷地内に直売店があり、明治期の古民家・母屋の見学も可(要予約)。毎月最終金~日曜(12月は15~17日)に限定酒の量り売りをする。
【伊藤さんおすすめこの1本】
アルプス正宗純米原酒山恵錦(720ミリリットル1540円、1・8リットル2970円)
【相性のいい料理】
季節の鍋料理焼き鳥(たれ)、山賊焼き、酢豚など
【連絡先】
亀田屋酒造店℡0120・47・1320